財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~
「惺也くん。……離婚しよう」
「……は?」
「これ以上、私がそばにいても足手まといになるだけだから」

 私を抱きしめている腕の力が、さらに強まる。

「嫌だ。絶対に別れない」

 ますます腕に力が入り、少し苦しいくらいに……。

「李茉は何の心配もしなくていい」
「でも……」
「投資事業をしていれば、こういう不測の事態は起こり得ることだ。だが、ちゃんと対策もしてある。だから、心配するな」

 その言葉は優しくて、温かくて……とても、虚勢を張っているようには聞こえない。
 けれど、そういうことも含めて全てが、本来ならしなくていいことだったと思えば……私には身に余るほどの幸せだったのだと気づかされた。
 本当に、数兆円にも及ぶ損失を、どうやって返せるというのか。考えただけで、恐怖で体が震えてくる。

「寒いか?」
「……ううん、大丈夫」

 惺也くんはエアコンのリモコンに手を伸ばし、温度を少し上げた。こういう優しさが余計に、心に刺さる。
 熱い眼差しを向けられ、顎がそっと持ち上げられる。
 数日ぶりに交わした口づけは蕩けるように甘いはずなのに、……仄かに苦くて切ない味がした。
< 155 / 200 >

この作品をシェア

pagetop