財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~
 翌朝、半休を取っていた私は、出勤する惺也くんを見送るために玄関へと。

「いってくるな」
「いってらっしゃい。無理しないでね」
「できるだけ、早く帰ってくる」
「……ん」

 玄関先でハグをする。
 少し名残惜しそうな表情を浮かべる惺也くんのほっぺに、チュッと触れるだけのキスをした。
 すると、私の行動が意外だと思ったのか、一瞬驚いた彼は、お返しのキスをおでこにしてくれた。

「いってきます」
「気をつけてね」

 笑顔で彼を送り出し、静まり返った玄関で小さく息を吐く。
 ゆっくり踵を返した瞬間、目尻から涙が溢れた。
 たった数カ月しか生活していない空間なのに、もう何年も過ごしたような想い出が蘇る。
 突然始まった契約結婚で、ぎこちなかったはずの生活なのに……こんなにも苦しくなるほどかけがえのない時間だったなんて。
 ふらつく足で寝室へと向かい、自分の荷物をまとめる。
 元々、自分が持ってきた物なんてわずかで、ほとんどが惺也くんに買ってもらったものばかり。
 服もバッグも化粧品も……。
 荷物をまとめるのに半日くらいかかると思っていたのに、三十分ほどでスーツケース一つに収まってしまった。

 ――惺也くん、ごめんね。今日まで、ありがとう。

 あらかじめ用意しておいた離婚届をダイニングテーブルの上に置いて、私はマンションを後にした。
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