財界の暴君に契約妻として囲われました ~初恋を拗らせた大富豪に、一途に愛されています~
 一時間半ほどが経過し、そろそろ親に声をかけようと思った、その時。
 愛華のスマホが鳴り、「ごめんなさい、少し失礼します」と告げた彼女は、慌てて席を立った。

「母さん、……俺、そろそろ」
「……ん、わかったわ」

 腰を上げた俺は、衣を正して、「用事がありますので、お先に失礼します」と挨拶し、深々と一礼した。
 お座敷を後にした俺は、内庭の枯山水を眺めながら玄関へと向かう。
 すると、通路の奥から、甲高い愛華の声が聞こえてきた。

「……あと少しで彼が手に入るの。だから、しっかり見張っててちょうだい。あの女が惺也さんに近づかないように」

 俺は思わず息を呑んだ。
 勝利目前のような命令口調。電話の相手が誰なのか、そんなことはどうでもいい。
 やはり李茉を監視しているのだと知り、拳がわなわなと震えた。
 今の俺では何もしてやれないという無力感が、俺を打ちのめす。

 来た道を戻り、裏口から表に出た俺は、待機していた及川に尋ねる。

「及川、……警備は、抜かりがないんだろうな?」
「ご心配ありません。二十四時間体制で警備するように指示してあります」
「……そうか。愛華が誰かに監視するように指示を出していた。くれぐれも頼む」
「承知しました。警備をさらに厳重にいたします」

 及川の言葉に、小さく頷く。
 本当は目の届くところにいて欲しいが、俺のそばにいたら、危険な目に遭わせてしまう。
 両親のもとで、無事でいてくれたらそれでいい。
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