愛が全てじゃないけれど

*****


「そっかぁ……」

 週明け。

 私から奈都を誘ってランチをした。

 慶太朗と別れた翌日は、奈都は専務に同行でいなかった。

 わざわざ週末に報告するのも気が引けた。

 飛び石連休の今日は社内に人が少ない。

 月曜の今日を有休にすれば、四連休だ。

「別れちゃったかぁ」

 奈都はシーフードドリアをスプーンですくい、息を吹きかける。

「奈都のせいじゃないからね?」

 私はオムライスを頬張る。

「そんなに許せなかった? キス」

「それだけじゃないけど」

「キスだけじゃなかった?」

「じゃなくて」

「シテなかった?」

「聞いてない」

「なんで」

「……」

 大袈裟に咀嚼して、黙る。

「シテもシテなくても、ってことか」

 はあっとため息を吹きかけたドリアを口に入れた奈都が、じとっと私を見る。

「奈都は? 鈴原くんと話した?」

 奈都が頷く。

「で?」

 首を振る。

「鈴原くんは納得した?」

「多分」

「そっか」

 理屈じゃない。

 私と慶太朗も。

 奈都と鈴原くんも。

「飲みに行く?」

「ん~……」

 奈都の誘いに、卵とデミグラスソースを味わいながら、考える。

 明日は休みだ。

 悶々として過ごすのは、週末の二日で十分だ。

「行こうかな」

「良かった」

 奈都がふふふっと笑う。

「前に行ったイタリアンバルは?」

「あ、行きたいところがあるの」

「え?」

「この前、神海さんに教えてもらったの」

「バーを?」

「そ。行きつけなんですって」

「それは、お誘いなんじゃないの?」

「かもね。あ、でも! 約束してるわけじゃないわ」

「ふ~ん」

「ホントに! 約束してるなら一人で行くわよ」

「確かに」

 会社のビルから徒歩十分ほどの場所にあるこのカフェは、開店からお昼過ぎまで近隣のビルで働く人たちでごった返す。

 ただ、同じような飲食店は他にもたくさん並んでいるから、この店がダメなら中華にしようと決めて来た。

 が、運よく最後のひと席が空いていた。

 奈都は調理に時間がかかるシーフードドリアか同じくらい調理に時間がかかるシーフードグラタンか迷って、ドリアにした。

 結果、私はあとふた口で食べ終わり、奈都はようやく三口目を食べている。

「誘われたら、行くの?」

「ん?」

 奈都が唇を少し尖らせてドリアを冷ます様は、同性の私から見てもセクシー。

「神海さんと連絡先交換した?」

「名刺、交換したでしょ?」

「神海さんが奈都を誘おうとしたら、秘書課の新人を通すの?」

「そうね。でなきゃ、彼の行きつけのバーで偶然再会するか」

「なるほど。じゃあ、そのどちらかの方法で、二人きりで会おうと誘われたら、どうするの?」

「……」

 今度は奈都が答えるより先にドリアを口に入れ、黙って咀嚼する。

 私はその様子をじっと見ていた。

 じっと。

 奈都は私の、自分を見つめる顔を見て、笑い出す。

「わかったわよ! 行くわ。神海さんに誘われたら、OKすると思う」

「鈴原くんを忘れるため?」

 一瞬で奈都の表情から笑みが消える。

「本当にちゃんと話したの?」

 奈都が、今度は冷まさずにドリアを口に入れた。

 少しだけ表情を歪ませながら、食べ続ける。

「奈都」

「終わったの」

 私の目には、奈都も鈴原くんと同じくらい、気持ちを引きずっているように見える。

 とはいえ、これ以上は踏み込んではいけない。

 嫌いじゃなくても、一緒にいられないことがある。

 それは、それくらいは、私にだってわかる。
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