愛が全てじゃないけれど
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「そっかぁ……」
週明け。
私から奈都を誘ってランチをした。
慶太朗と別れた翌日は、奈都は専務に同行でいなかった。
わざわざ週末に報告するのも気が引けた。
飛び石連休の今日は社内に人が少ない。
月曜の今日を有休にすれば、四連休だ。
「別れちゃったかぁ」
奈都はシーフードドリアをスプーンですくい、息を吹きかける。
「奈都のせいじゃないからね?」
私はオムライスを頬張る。
「そんなに許せなかった? キス」
「それだけじゃないけど」
「キスだけじゃなかった?」
「じゃなくて」
「シテなかった?」
「聞いてない」
「なんで」
「……」
大袈裟に咀嚼して、黙る。
「シテもシテなくても、ってことか」
はあっとため息を吹きかけたドリアを口に入れた奈都が、じとっと私を見る。
「奈都は? 鈴原くんと話した?」
奈都が頷く。
「で?」
首を振る。
「鈴原くんは納得した?」
「多分」
「そっか」
理屈じゃない。
私と慶太朗も。
奈都と鈴原くんも。
「飲みに行く?」
「ん~……」
奈都の誘いに、卵とデミグラスソースを味わいながら、考える。
明日は休みだ。
悶々として過ごすのは、週末の二日で十分だ。
「行こうかな」
「良かった」
奈都がふふふっと笑う。
「前に行ったイタリアンバルは?」
「あ、行きたいところがあるの」
「え?」
「この前、神海さんに教えてもらったの」
「バーを?」
「そ。行きつけなんですって」
「それは、お誘いなんじゃないの?」
「かもね。あ、でも! 約束してるわけじゃないわ」
「ふ~ん」
「ホントに! 約束してるなら一人で行くわよ」
「確かに」
会社のビルから徒歩十分ほどの場所にあるこのカフェは、開店からお昼過ぎまで近隣のビルで働く人たちでごった返す。
ただ、同じような飲食店は他にもたくさん並んでいるから、この店がダメなら中華にしようと決めて来た。
が、運よく最後のひと席が空いていた。
奈都は調理に時間がかかるシーフードドリアか同じくらい調理に時間がかかるシーフードグラタンか迷って、ドリアにした。
結果、私はあとふた口で食べ終わり、奈都はようやく三口目を食べている。
「誘われたら、行くの?」
「ん?」
奈都が唇を少し尖らせてドリアを冷ます様は、同性の私から見てもセクシー。
「神海さんと連絡先交換した?」
「名刺、交換したでしょ?」
「神海さんが奈都を誘おうとしたら、秘書課の新人を通すの?」
「そうね。でなきゃ、彼の行きつけのバーで偶然再会するか」
「なるほど。じゃあ、そのどちらかの方法で、二人きりで会おうと誘われたら、どうするの?」
「……」
今度は奈都が答えるより先にドリアを口に入れ、黙って咀嚼する。
私はその様子をじっと見ていた。
じっと。
奈都は私の、自分を見つめる顔を見て、笑い出す。
「わかったわよ! 行くわ。神海さんに誘われたら、OKすると思う」
「鈴原くんを忘れるため?」
一瞬で奈都の表情から笑みが消える。
「本当にちゃんと話したの?」
奈都が、今度は冷まさずにドリアを口に入れた。
少しだけ表情を歪ませながら、食べ続ける。
「奈都」
「終わったの」
私の目には、奈都も鈴原くんと同じくらい、気持ちを引きずっているように見える。
とはいえ、これ以上は踏み込んではいけない。
嫌いじゃなくても、一緒にいられないことがある。
それは、それくらいは、私にだってわかる。