愛が全てじゃないけれど
「セックス目的で誘ったから?」
「いえ。セックス目的で誘われたわけじゃないと思っていた自分の、人を見る目のなさに」
売り言葉に買い言葉のように『セックス』と言ってしまってから周囲を確認しても遅い。
が、エレベーターホールには私たちだけだった。
「取ってないよ」
「……」
その言葉を信じるほど、私も初心じゃない。
「俺が持ってるカードは、これ」
峰濱さんがジャケットの内ポケットから、ルームキーと同じ大きさのカードを取り出す。
差し出されたそれを、私は受け取って見た。
「予約カード?」
カードには時刻と、知らない誰かの名前が書かれている。
「運転代行を頼んでおいたんだ。これはその予約カード」
書かれている時刻まで、あとニ十分。
「さすがにあとニ十分のために部屋は取らないかな」
「言ってくれれば……」
部屋に連れ込むなどとこの状況では邪推しかねない発言ではあったけれど、過剰反応した自分が恥ずかしい。
「ごめん。でも、良かった」
「?」
「きみが、俺の取った部屋がスイートかを気にする女性じゃなくて」
「どういう――」
「――そういう付き合い、俺は嫌なんだ」
「そういう……とは?」
高層階専用にしては時間をかけて私たちを迎えに来たエレベーターの扉が開き、私たちは乗り込んだ。
「誤解しないでほしいんだけど、ワンナイトとかセフレを批判する気はないんだ。お互いに求める関係が一致しているのなら、当人の自由だ。でも、俺はそういう関係の女性を求めてない」
結婚相手を探してる……とか?
「というか、女性そのものを求めてなかったんだけど……」
「……?」
歯切れの悪い峰濱さんが、じっと私を見つめたまま何か考え込む。
そのうち、迎えの遅れを取り戻すようにノンストップで降下していたエレベーターが、地下駐車場に到着した。
「代行の時間まで車で話そうか」
私たちは揃って、後部座席に乗った。
そして、私に向けて身体を斜めにして座った彼が、とても言いにくそうに口を開いた。
「女性不信……は大袈裟だけど、出会いを必要としないからか吉良はそう感じたんだろうね。合コンに誘われるんだけど、誰にも何も感じなかったんだ」
車内は静かで、だからこそ、駐車場内のドアの開け閉めやエンジン音がよく聞こえる。
すぐそばで男女が言い合うような声も。
「もう一度会いたいと思える女性に出会えなくて、あの日は吉良に、もう誘わなくていいって言うつもりだった……んだけど、意味が変わってしまった。美空さんに出会えたから」
「私……?」
「ごめん。なんか、うまい言い方がわからないんだけど、要するに――」
「――同情……ですか?」
「え?」
可愛くない、なんてもんじゃない。
峰濱さんの様子と言葉から、なんとなく嬉しい展開が想像できているのに、それを遮って自分の惨めさを口にすべきではない。
けれど、そうしてしまったのは、言い争う男女の声が次第に大きくなり、車のすぐ近くを過ぎて行ったせいかもしれない。
「目の前で恋人に裏切られた私を、放っておけない?」
「……どうかな」
峰濱さんも大概だ。
ここでそう答えるのは、あまりいい印象ではないのに。
彼自身はどう思っているのかわからないが、真剣な表情を崩さない。
「いえ。セックス目的で誘われたわけじゃないと思っていた自分の、人を見る目のなさに」
売り言葉に買い言葉のように『セックス』と言ってしまってから周囲を確認しても遅い。
が、エレベーターホールには私たちだけだった。
「取ってないよ」
「……」
その言葉を信じるほど、私も初心じゃない。
「俺が持ってるカードは、これ」
峰濱さんがジャケットの内ポケットから、ルームキーと同じ大きさのカードを取り出す。
差し出されたそれを、私は受け取って見た。
「予約カード?」
カードには時刻と、知らない誰かの名前が書かれている。
「運転代行を頼んでおいたんだ。これはその予約カード」
書かれている時刻まで、あとニ十分。
「さすがにあとニ十分のために部屋は取らないかな」
「言ってくれれば……」
部屋に連れ込むなどとこの状況では邪推しかねない発言ではあったけれど、過剰反応した自分が恥ずかしい。
「ごめん。でも、良かった」
「?」
「きみが、俺の取った部屋がスイートかを気にする女性じゃなくて」
「どういう――」
「――そういう付き合い、俺は嫌なんだ」
「そういう……とは?」
高層階専用にしては時間をかけて私たちを迎えに来たエレベーターの扉が開き、私たちは乗り込んだ。
「誤解しないでほしいんだけど、ワンナイトとかセフレを批判する気はないんだ。お互いに求める関係が一致しているのなら、当人の自由だ。でも、俺はそういう関係の女性を求めてない」
結婚相手を探してる……とか?
「というか、女性そのものを求めてなかったんだけど……」
「……?」
歯切れの悪い峰濱さんが、じっと私を見つめたまま何か考え込む。
そのうち、迎えの遅れを取り戻すようにノンストップで降下していたエレベーターが、地下駐車場に到着した。
「代行の時間まで車で話そうか」
私たちは揃って、後部座席に乗った。
そして、私に向けて身体を斜めにして座った彼が、とても言いにくそうに口を開いた。
「女性不信……は大袈裟だけど、出会いを必要としないからか吉良はそう感じたんだろうね。合コンに誘われるんだけど、誰にも何も感じなかったんだ」
車内は静かで、だからこそ、駐車場内のドアの開け閉めやエンジン音がよく聞こえる。
すぐそばで男女が言い合うような声も。
「もう一度会いたいと思える女性に出会えなくて、あの日は吉良に、もう誘わなくていいって言うつもりだった……んだけど、意味が変わってしまった。美空さんに出会えたから」
「私……?」
「ごめん。なんか、うまい言い方がわからないんだけど、要するに――」
「――同情……ですか?」
「え?」
可愛くない、なんてもんじゃない。
峰濱さんの様子と言葉から、なんとなく嬉しい展開が想像できているのに、それを遮って自分の惨めさを口にすべきではない。
けれど、そうしてしまったのは、言い争う男女の声が次第に大きくなり、車のすぐ近くを過ぎて行ったせいかもしれない。
「目の前で恋人に裏切られた私を、放っておけない?」
「……どうかな」
峰濱さんも大概だ。
ここでそう答えるのは、あまりいい印象ではないのに。
彼自身はどう思っているのかわからないが、真剣な表情を崩さない。