愛が全てじゃないけれど
5.縮まる距離
「えっ? もう部屋に行ったの!?」
「うん」
週明け、奈都からランチの誘いを受けたけれど、午後一に会議があるからと断った。
すると、仕事帰りに食事に行こうと誘われ、会社の最寄り駅近くの和食レストランに来た。
私は天ぷらとそばのセット、奈都は牛すきとうどんのセットを注文する。
仕事帰りの会社員や家族連れでいっぱいの店内を、店員が忙しなく動いている。
この店は去年からパットでのオーダーになったのだが、やはり使い方がわからなくて呼ばれたり、食事を運ぶだけでも大変そう。
そんな様子を眺めていたら、奈都から神海さんと付き合い始めた事と、週末のデートで彼の部屋に行ったことを聞かされた。
「あ、でも、シてないよ」
「そう……なんだ」
別に、人の付き合い方にとやかく言うつもりはない。
出会ってすぐにホテルに行く人だっているし、むしろ身体の相性が良ければ付き合いましょうって場合もあると思う。
それ自体をどうこう言うつもりはないけれど、私が峰濱さんとの食事に行く行かないと悶々としているうちに、奈都はサクサクと神海さんとの関係を進展させていたのだと思うと、自分がいかに面倒くさい女かを思い知らされるよう。
「金曜の夜に食事して、つきあおっかって話になって、日曜日にデートしようって言われたから、家に行きたいって言ったの」
「奈都から?」
「そ。試すわけじゃないけどさ? どんな反応するのかと思って」
「どんな反応だったの?」
「ストレートに、どうして? って聞かれた」
付き合い始めたばかりの彼女に家に行きたいと言われた男性の、一般的な反応がわからないから正解もわからない。
「なんて答えたの?」
「ストレートに、実は結婚してないかの確認、って」
「えっ!?」
神海さんが結婚している可能性を、私はわずかにも考えていなかったから、驚いた。
「今の時代、独身だって嘘を吐いて不倫する男も女もゴロゴロいるじゃない。結婚してなくても恋人がいるとか。それに、独身だとしても、実家暮らしで親におんぶに抱っことか? それにそれに! 独身で一人暮らしでも、生理的に無理なレベルの汚部屋に住んでるとか!」
なるほど、と思ってしまった。
私の少ない恋愛経験の中で、お互いの家を行き来する関係は慶太朗だけだった。
慶太朗の前に好きだった人はキスひとつ残していなくなるような上司だったし、その前は大学時代で実家暮らしだったから。
「神海さんの反応は?」
「大笑いしてた」
「で、家に行ってみてどうだった?」
「意外と普通だった」
「意外だったんだ?」
「うん。スーツも車も腕時計も高級そうだし、タワマンに住んでるのかと思ったけど、セキュリティがしっかりしてる単身者用マンションだった。まぁ? 私や美空のマンションの倍以上の広さはあったけど。物は少なめで、片付いてたし」
確かに、峰濱さんも神海さんも、スーツや腕時計は高級そうだった。
経営者と聞いたからそう見えたのもあるかもしれないけれど。
「素直に感想を言ったら、また大笑いされたわ」
美人でデキる秘書の奈都は、社内でもお高くとまっていると思われているし、言われているけれど、とんでもない。
むしろ実際にお高くとまっている人たちの実態を知っているから、そういう人たちを毛嫌いしている。
そして、裏表がないだけでなく物怖じもしない彼女は、私の憧れでもある。
だからって、いきなり男の家に突撃するのはどうかと思うけど……。
「広すぎる部屋は不便なんだって。基本、ずぼらなんだって言ってた」
「はぁ……」
「とりあえず、あの部屋がセカンドハウスじゃなければ、独身は確かね。女の匂いもしなかった。そうね、匂いだけでジャッジするなら汚部屋でもなさそう」
これも神海さんに言ったんだろうなと思うと、私も笑えた。
「笑い事じゃないわよ? 美空も峰濱さんの家に行って、自分の目で確かめてきなさいよ」
「いや、でも、それ、信じてないって宣言してるみたいじゃない。それに、神海さんが下心の塊だったらどうしてたの?」
「実はちょっと、そうなってもいいかなぁとは思ってたのよ」
奈都がふふふっと笑いながら、牛すきを頬張る。
「はい?」