愛が全てじゃないけれど
「男って、女が家に来たらOKって思うもんだって何かで見て、吉良もそう思ってるかもとは覚悟して言ったから。まぁ、そのつもりで家に入れたなら、女はいない証拠でもあるし? 変な性癖がないかのチェックのためにも、早めの確認が必要だとも思うし」
奈都の想いきりの良さは、私には真似できそうにない。
無言でそばをすする。
「でも、潔白を証明できて良かった、って笑ってたの。なんなら、いつでも来られるように合鍵を渡してもいいって」
付き合って数日で合鍵って……。
奈都が金持ちの男を食い物にする女だったらどうするのか。
神海さんは奈都の上を行く豪胆さのようだ。
「もう、名前で呼んでるの?」
「ん?」
うどんを咥えたまま、奈都が視線を私に向ける。
「名前」
うどんを咀嚼し飲み込むまで、私は天ぷらを味わいながら待つ。
「うん。この前バーで、私のことなっちゃんとかふざけた呼び方してたじゃない。やめてって言ったら呼び捨てしていいかって聞かれたの。でも、それなら私だけ神海さんとかお行儀よく呼ぶことなくない?」
「まぁ……」
「年上だし、とか思ってたんだけど、話してみたら全然年上感ないし」
「そう……なの?」
「ん~……。少なくとも二人の時はそうね。私が年齢を気にしないようにそうしてくれているのかもしれないけど」
そういえば、私は『峰濱さん』と呼んでいるけれど、彼は私を『美空さん』と呼ぶ。
既に付き合うことにした奈都と神海さんの距離感の真似はできないにしても、親近感はもてないなと思う。
せめて私も名前で呼ぶべきかな。
成悟さん……とか?
「とにかく! お宅訪問は大事よ? 元カノの置き土産がないか、とかね?」
元カノ、ねぇ……。
そこでハッとした。
慶太朗の部屋の私の荷物、どうしたんだろう。
捨ててもらっても構わないものばかりだ。
泊まる時用の部屋着やスキンケア用品なんか。
小花ちゃんを部屋に入れる前に、片付けてるといいけど。
余計なお世話だ。
わかっているけれど、慶太朗はそういうところに気が回るタイプじゃないから、少しだけ気になった。
そういう意味では、奈都の言う通りお宅訪問は意味があるかもしれない。
でもなぁ……。
まだ、恋人ってわけじゃないし……。
違う。
恋人になってから他に女がいたとかわかっても遅い。
いやいや、いきなり疑ってかかるのはどうなの。
「何考えてるの? 美空」
「え?」
ぐるぐる考えているうちに、奈都は食事を終えてにまにまと不気味な笑みで私を見ていた。「峰濱さんとは? 食事をキャンセルしてから連絡きた?」
「うん」
「で?」
奈都がテーブルの上で腕を組んで、前のめりに聞く。
「で? って?」
神海さんから聞いて知っているのでは、と思えるほど確信めいた表情の奈都。
峰濱さん――というか男の人って友達に恋愛話するんだろうか……?
それはさておき、こうして二人で向き合っていて、奈都の質問攻めをかわせる気がしない。
そもそも、奈都に隠そうという気もないのだが、先に報告されてしまって言いにくいのが事実。
「土曜の夜、食事した」
「峰濱さん、めげずに誘ってくれたんだ?」
「うん」
食事に至った経緯を詳しく話す必要はないだろう。
「で?」
「鉄板焼きご馳走になったの」
「そう! それで?」
「また会いましょう、って」
奈都の上がっていた口角がわずかに下がり、ワクワク感やドキドキ感がトーンダウンしたのがわかる。
「……で?」
「それだけ」
親友の表情から笑みが消えた。
「……は?」
がっかりを通り越して怒っているかのような、低い太い声。
奈都のコレ、神海さんが知るのはいつかな……。