愛が全てじゃないけれど
「どれも美味しいんだけど、定番の水炊きかな。好きなタレで食べられるから」
「じゃあ、水炊きにします」
二人用の鍋にいっぱいの具材を見た時は食べきれるだろうかと思ったが、あっさりしていてぱくぱく食べられた。
私はおろしだれ、成悟さんはごまだれを選び、〆はうどんにした。
店を出る時、女将さんが「今度はお友達と来てくださいね」と和紙のショップカードをくれた。
「私のお勧めはキムチやチゲなの」と。
絶対に奈都と一緒に来ようと思った。
帰りの車の中、私たちはあまり会話をしなかった。
それでも居心地が悪いとは思わず、彼もそう思ってくれていたらいいなと思った。
成悟さんは一度しか来ていない、私のマンション近くのコンビニまで、ナビを使わずに辿り着いた。
前回のように駐車場の端に停め、シートベルトを外す。
「ありがとうございました」
「美空さん」
「はい」
「また、会ってほしい」
「え?」
「今度は今日みたいに急な仕事は入れないから」
「今日のことは気にしないでください。仕事なんだし」
「うん。けど――」
「――私もまた、会いたいです」
素直な気持ちだった。
「今日のことは……私もキャンセルしちゃいましたし、お互い様です」
「ありがとう」
「いえ」
数秒、顔を見合わせたまま無言でいると、ブォンッと大きなエンジン音が聞こえた。
沈黙が破られ、見つめ合っているのが恥ずかしくなり、ドアノブに手をかける。
「じゃあ――」
「――待って」
成悟さんが後部座席に手を伸ばし、鞄の中から四つ折りの紙を探し出し、私に差し出した。
「?」
「草下さんが吉良の家に行ったって聞いてる?」
「はい」
「うちに……来る?」
「え?」
話の流れから、色っぽいお誘いのように聞こえない。
「俺が独身か。独身でも恋人がいないかを確かめに」
「えっ!? あ!」
奈都が神海さんの家に突撃したことを聞いて、私も成悟さんを疑っていると思っているのか。
「私は疑ってなんか――」
「――いや、大事なことだと思うよ」
つまり、差し出されたこの紙が、家に行く代わりだということ?
私は受け取った。
そして、広げる。
戸籍謄本だった。
私はろくに見ずに畳んだ。
「こんな大事な個人情報を見せて、私が悪用したらどうするんですか」
「きみも名刺をくれたから」
その前に成悟さんがくれたんだけど……。
「恋人がいない証明はできないけど、結婚していないししていたこともないのことの証明にはなるだろう?」
「でも――」
「――両親の名前や出身が札幌だと知っても、悪用しようが――」
「――札幌なんですか!?」
私は驚きのあまり車内に響く声で聞いてしまった。
案の定、成悟さんは驚いている。
「私も……札幌です」
「えっ!?」
今度は成悟さんが声を響かせた。
私は謄本を開き、出生地に目を凝らす。
「H区……」
「美空さんは?」
「T区です」
「そっか。結構近いね」
「はい。今もご両親が住んでいるんですか?」
「うん。美空さんは?」
「はい」
「たまに帰ってる?」
「年に一度……ですかね」
「俺はもう五年くらい帰ってないな」
「そうなんですか?」
「うん。東京には結婚した妹も暮らしてるから、両親はちょくちょく来てるけど」
「じゃあ、水炊きにします」
二人用の鍋にいっぱいの具材を見た時は食べきれるだろうかと思ったが、あっさりしていてぱくぱく食べられた。
私はおろしだれ、成悟さんはごまだれを選び、〆はうどんにした。
店を出る時、女将さんが「今度はお友達と来てくださいね」と和紙のショップカードをくれた。
「私のお勧めはキムチやチゲなの」と。
絶対に奈都と一緒に来ようと思った。
帰りの車の中、私たちはあまり会話をしなかった。
それでも居心地が悪いとは思わず、彼もそう思ってくれていたらいいなと思った。
成悟さんは一度しか来ていない、私のマンション近くのコンビニまで、ナビを使わずに辿り着いた。
前回のように駐車場の端に停め、シートベルトを外す。
「ありがとうございました」
「美空さん」
「はい」
「また、会ってほしい」
「え?」
「今度は今日みたいに急な仕事は入れないから」
「今日のことは気にしないでください。仕事なんだし」
「うん。けど――」
「――私もまた、会いたいです」
素直な気持ちだった。
「今日のことは……私もキャンセルしちゃいましたし、お互い様です」
「ありがとう」
「いえ」
数秒、顔を見合わせたまま無言でいると、ブォンッと大きなエンジン音が聞こえた。
沈黙が破られ、見つめ合っているのが恥ずかしくなり、ドアノブに手をかける。
「じゃあ――」
「――待って」
成悟さんが後部座席に手を伸ばし、鞄の中から四つ折りの紙を探し出し、私に差し出した。
「?」
「草下さんが吉良の家に行ったって聞いてる?」
「はい」
「うちに……来る?」
「え?」
話の流れから、色っぽいお誘いのように聞こえない。
「俺が独身か。独身でも恋人がいないかを確かめに」
「えっ!? あ!」
奈都が神海さんの家に突撃したことを聞いて、私も成悟さんを疑っていると思っているのか。
「私は疑ってなんか――」
「――いや、大事なことだと思うよ」
つまり、差し出されたこの紙が、家に行く代わりだということ?
私は受け取った。
そして、広げる。
戸籍謄本だった。
私はろくに見ずに畳んだ。
「こんな大事な個人情報を見せて、私が悪用したらどうするんですか」
「きみも名刺をくれたから」
その前に成悟さんがくれたんだけど……。
「恋人がいない証明はできないけど、結婚していないししていたこともないのことの証明にはなるだろう?」
「でも――」
「――両親の名前や出身が札幌だと知っても、悪用しようが――」
「――札幌なんですか!?」
私は驚きのあまり車内に響く声で聞いてしまった。
案の定、成悟さんは驚いている。
「私も……札幌です」
「えっ!?」
今度は成悟さんが声を響かせた。
私は謄本を開き、出生地に目を凝らす。
「H区……」
「美空さんは?」
「T区です」
「そっか。結構近いね」
「はい。今もご両親が住んでいるんですか?」
「うん。美空さんは?」
「はい」
「たまに帰ってる?」
「年に一度……ですかね」
「俺はもう五年くらい帰ってないな」
「そうなんですか?」
「うん。東京には結婚した妹も暮らしてるから、両親はちょくちょく来てるけど」