愛が全てじゃないけれど
前から私を好きだったと、慶太朗は言った。
いつも、誰にでも同じように優しくて、ノリの軽い彼を異性として意識したことがなかった私は、一度は断った。
それでも、チャンスが欲しいと言われて、何度かデートをした後で再び告白され、受け入れた。
いい人なのは知っていた。
デートしてみて好意を持った。
だから、OKした。
彼は、私が恥ずかしくなるくらい喜んでくれた。
それが今は、嘘を吐いて若い女と合コンですか……。
鈴原くんも奈都と付き合えてすごく幸せそうだった。
だから、まさかあんな別れ方をするとは思わなかったのよね……。
奈都と鈴原くんが付き合い始めて一年が過ぎた先月、奈都の妊娠疑惑が浮上した。
生理が遅れていた奈都は、検査する前に鈴原くんにそれを告げた。
どうして話してしまったのか自分でもわからない、と奈都は言っていたけれど、今思うと予感のようなものがあったのかもしれない。
その結果、鈴原くんは狼狽えたらしい。
結婚の話は出ていなかったにしても、手放しで喜べとまでは言わないにしても、あたふたしすぎて奈都が呆れを通り越して笑ってしまうほどの狼狽えようだったらしいから、フォローのしようもない。
それについて、私と慶太朗で喧嘩になったくらいだ。
当然のように鈴原くんを擁護する慶太朗と、奈都に同情する私。
あの時、私が妊娠したって言ったら慶太朗もあたふたするのが目に浮かんだのよね……。
結局、奈都は妊娠していなかった。
それを告げた時の鈴原くんの安心しきりな表情に、奈都が愛想を尽かして別れた。
鈴原くんは別れたくないと、妊娠には驚いたが困ったわけでも嫌だったわけでもないと、一生懸命弁解したらしいが、奈都は考えを変えなかった。
「遅かったね?」
テーブルに戻ると、奈都が言った。
相変わらず鈴原くんが奈都をチラチラ見ている。
「ちょっと話してたんだ」
峰濱さんが何でもない表情でそう言って、店員に新しいシャンパンをボトルで注文する。
席を立っている間にメインの肉料理が運ばれてきていた。
「すっごく柔らかくて美味しいよ」
オードブルを囲む慶太朗たちのテーブルとは違って、私たちはコース料理を注文していた。
牛肉のタリアータを一枚、折り畳んでフォークに刺し、口に入れた。
とろけるような舌触りに驚く。
「ね?」
コクコクと頷く。
「ふふっ。良かった」
神海さんが微笑む。
私は奈都に顔を寄せて「結実ちゃんに申し訳ないんだけど」と囁いた。
「今度、ランチご馳走するわ」
奈都がシャンパングラスを傾けて言った。
女の私から見てもドキドキするほど、奈都は色っぽい。
それでいて、性格はサバサバというかバサバサしていて男前。
けれど、それが全てではない。
「あ~っ! やっと戻ってきた!」
背後の声に顔を上げると、慶太朗と小花ちゃんが腕を組んで戻ってきたところだった。
慶太朗は私と目が合うなり彼女の手を解こうとしたが、放してもらえない。
「終わるまで待てないのかよ!」
そう言ったのは、慶太朗の先輩。
慶太朗に輪をかけたお調子者で、とにかく賑やかな場が大好き。
社内の飲み会でも、欠員が出たと聞けば平気で他部署の飲み会に現れる。
声が丸聞こえの距離だが、私と奈都はずっと彼らに背を向けているから、店に来てから一時間経った今も気づかれていない。
「支倉! 口、テカッてんぞ」
「え!?」
先輩に指摘されて慶太朗が焦っているのが、見なくても想像できる。
「小花ちゃん。無理やりチューされたわけじゃない? もしそうなら、俺がガツンッと――」
「――違いますよ~。ね? 慶太朗さん」
「これはそういうんじゃ――」