愛が全てじゃないけれど
「――ちくしょー! 支倉、今日は傷心の鈴原を慰めるための集まりなんだぞ。なんで同期のお前がモテてんだよ」
「え? 鈴原さん、傷心なんですかぁ?」
「え? いや、そんなことは――」
「――そうなんだよ! コイツ、秘書課の彼女にフラれちゃってさ。あ、秘書課一の氷の美女なんだけどね? 同期だからって付き合えたのがそもそもラッキー過ぎたんだよ」
「先輩! それ以上は――」
「――鈴原さん、どうしてフラれちゃったんですか?」
悪意がなさそうな声が、鈴原くんの傷に爪を立てる。
「その話は――」
「――遊びだったんだよ。あ・そ・び! ひどい話だろ? こぉ~んな純情な鈴原の心を弄んでポイッとさ? まぁ、ポイッとされるとわかっていてもお付き合いしたいほどの美人ではあるんだけど」
「先輩! いい加減に――」
「――えぇ~。鈴原さんかわいそー」
まったくそうは思っていなさそうな、乾いた言葉。
奈都に視線を向けるも、彼女は黙々と食事している。
「美味しい? 奈都さん」
神海さんが聞くと、奈都は「ええ、とっても」と微笑んだ。
「ただ、こうも騒がしくなければ良かったんですけど」
「そうだね。同感だよ」
私も奈都も、今日は散々だ。
結局、デザートを待たずに店を出た。
席を立った時、振り返った営業部一同が私と奈都に気づいたけれど、ニコリと笑って見せると何も言わなかった。
言えなかった、の間違いかもしれない。
食事代は峰濱さんと神海さんが払ってくれた。
店の前で頭を下げる私と奈都に、二人は「今度は個室を予約するよ」と言ってくれた。
二人に名刺を渡したのは、私より奈都が先だった。
「悪用されないと判断しましたので。それに、人脈は大切です」
女の名刺一枚を悪用するような人たちには見えない。それは確か。
だから、私も渡した。
送ろうかと言われて、断った。私も奈都も。
タクシーに乗った私をじっと見て、峰濱さんが何か言いたげだったけれど、何も言わなかった。
もう一度会うことがあるだろうか。
ない方がいいかもしれない。
恋人に裏切られた惨めな私を見られてしまった。
だから、もう会わない方がいい……。
私たち四人は、何の約束もないまま、別れた。