愛が全てじゃないけれど
「昨日は……木下たちに人数が足りないって言われて、仕方なく行ったんだ。ちょっと……、いやかなり調子に乗ったのは……悪かった! ごめん! でも、ほら! 場を盛り上げるためだけで、本気じゃない」

 わかってる。

 恋人としての付き合いは短くても、同期としての付き合いは六年だ。

 同期会でも、いつもバカなことを言って場を盛り上げてくれている。

「嘘を吐いたわ」

「……っ! それは……ごめん」

 一瞬、何かうまい言い訳はないかと考え、諦めて謝った。

 その一瞬が、私の決意を強固にする。

「私に見つかってからも、あの場を離れなかったし、小花ちゃんともいちゃついてたじゃない」

「あれは! 美空……が俺と付き合ってることバレたくないって言ってた……から……」

「大っぴらにしたくないって言ったのよ。バレたくないなんて言ってないわ」

「あそこでバレたら、大っぴらに……なるだろ?」

 引き攣った笑みで私を見る慶太朗。

 なんとか許してほしくて必死なのはよくわかる。

 けれど、私の気持ちは驚くほど動かない。

 シンッと張り詰めた空気に耐えられなくなった慶太朗が、ゆっくりと立ち上がる。

「鈴原が草下にフラれて、営業のみんなが心配してセッティングしたんだよ。気晴らしになったら、って」

 スーツの足元やコートの裾を払う。

「美空からメッセきた時、その説明をするのが面倒で接待だって嘘を吐いた。それは、本当に悪かったと思ってる」

 事実なのだろう。

 バレなければ言わなかった、という点は端折られているが。

 合コンくらいでどうこう言うつもりはない。

 私だって、昨日が初めてだけれど、行った。

 一度、ちゃんと報告を受けて、付き合いだから仕方がないと参加を許したことがある。

 あの時は、一次会の後で私の部屋(ここ)に来た。

 本当にご飯を食べて少し飲んだだけだと、私に証明したくて。

 心配していたわけではなかったけれど、そういう慶太朗の誠意が嬉しかった。

 好きだと言われて、付き合って欲しいと、一度フラれたくらいじゃ諦められないと乞われて、付き合い始めた。

 手が触れるだけで顔を赤らめていた慶太朗。

 初めてのキスの時、あんまり緊張して手汗が酷いから、私まで異常にドキドキした。

 デートの後で、帰したくないと言おうとして『帰りたくない』と言った慶太朗。

 間違えたと涙目になっていた。

 なかなか思うように格好がつかなくて、それでも私を好きだと全身で伝えてくれる男性(ひと)

 私は確かに慶太朗を好きになった。


 確かに、好きだった……。


「ごめん、美空」

 慶太朗が一歩、私に近づく。

「もう合コンなんか行かない」

 もう一歩、近づく。

「嘘もつかない」

 もう一歩近づき、私の頬に手を伸ばす。

「俺には――」

「――キスしてたわ、小花ちゃんと」

「えっ!?」

 慶太朗の手は、私の頬に触れるか触れないかの場所で、止まった。

「キス、してたわ」

「ちが――っ」

「見たわ」

 慶太朗の手が私に触れずにだらんと落ちて、一緒に視線も落ちて、彷徨う。

 言い訳を、考えているのだろう。

 数秒沈黙し、その場に座り込む。

 この短時間で二度目の土下座。

「ごめんっ! でも、あれはサレたんだ。不意打ちで避けられなかったし、小花ちゃんも酔っていて――」

「――私もシタって言ったら?」

「え?」

「私が合コン相手とキスしたって、されたんだって言っても――」

「――したのか!?」

 勢いよく立ち上がったと思ったら、慶太朗が私の両肩をがっちりと掴んだ。

「キスしたのか!?」

「どうして? 慶太朗だってしたじゃない。どうして私だと――」

「――男と女じゃ違うだろ!」

 こういうところ、なんだと思う。
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