あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
第一章 規定ですので
プロローグ/鳴りやまない電話
──今日のは、悪手です。
秋の夜の渡り廊下で、その人は前置きもなく言った。
篠宮湊。
ファンドから送り込まれた再建コンサルタント。
ハルシマ文具工業の社員八百人の運命を預かり、社内で「首切り屋」と呼ばれる男の人だ。
この二か月、恨みも苦情も、ぜんぶこの人が宛先になってくれた。
その後ろに、私は隠れていられた。
──今日、自分から、そこを出た。
「ああいう場で発言するということは、次からあなたが標的になるということなんですよ。そのことが、分かっていますか」
「分かってます」
自分でも驚くくらい、静かな声が出た。
暗い廊下で、湊の切れ長の目が、わずかに動く。
「……あなたは」
声が、低くなった。
ため息みたいな、でもため息じゃない声だった。
「本当にあなたは、昔から変わらずそういう人なんですね」
湊との距離が消えたのは、その直後だった。
──すべての始まりは、二か月前。
残暑の九月の月曜日。
私と湊はオレンジ色に染まる渡り廊下ですれ違ったのだ。
秋の夜の渡り廊下で、その人は前置きもなく言った。
篠宮湊。
ファンドから送り込まれた再建コンサルタント。
ハルシマ文具工業の社員八百人の運命を預かり、社内で「首切り屋」と呼ばれる男の人だ。
この二か月、恨みも苦情も、ぜんぶこの人が宛先になってくれた。
その後ろに、私は隠れていられた。
──今日、自分から、そこを出た。
「ああいう場で発言するということは、次からあなたが標的になるということなんですよ。そのことが、分かっていますか」
「分かってます」
自分でも驚くくらい、静かな声が出た。
暗い廊下で、湊の切れ長の目が、わずかに動く。
「……あなたは」
声が、低くなった。
ため息みたいな、でもため息じゃない声だった。
「本当にあなたは、昔から変わらずそういう人なんですね」
湊との距離が消えたのは、その直後だった。
──すべての始まりは、二か月前。
残暑の九月の月曜日。
私と湊はオレンジ色に染まる渡り廊下ですれ違ったのだ。