あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
千夏は笑って、ジト目の猫のスタンプを、久しぶりに送ってきた。
今度はスタンプと同じ顔を、本人が隣でしていた。
二十時半、フロアの照明が半分落ちて、足音が近づいてきた。
缶コーヒーが二本。
微糖の、いちばん平凡な銘柄。
お約束は、あれからちゃんとお約束になっている。
「晩ごはんは」
「食べました。おにぎりを、二つ」
「……三つにしません?」
「善処します」
机の引き出しには、宛先のない封筒と、育成貢献のページのコピーが、隣同士で入っている。
コピーには、山吹の付箋を一枚、貼ってある。
あの原案に貼られていたのと、同じ色を選んだ。
片方は戒めで、片方は、名前の入った約束だ。
どちらも、捨てる予定はない。
帰り支度をして、二人で渡り廊下を歩いた。
冬の夕方はもう夜で、窓の外は暗い。
それでも、廊下の端の非常灯と、遠くの製造棟の明かりで、歩くには足りた。
初めてフルネームを呼ばれた場所を、今日は隣で歩いている。
「明日も、窓口ですか」
「明日も、窓口です」
規定ですので、と言うために、明日もあのカウンターに立つ。
同じ言葉を、明日からは、逃げ場所じゃなく言う。
それだけのことに、三年と、この秋一つ分かかった。
かかったけど、と隣を見る。
半歩の距離で、歩幅を合わせてくれる人がいる。
渡り廊下の先で、扉が開いた。
あの日は音もなく閉まった扉が、今日は、二人が通り抜けるあいだ、開いたままだった。