あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
事務棟の入口で、事務の女性たちの会話が急に止まった。
それから、ひそひそと話し始める。
「……え、あの人が例の?」
「うそ、思ってたのと違う」
「ドラマの人みたいじゃない?」
本社の説明会と、まったく同じ反応だ。
篠宮は聞こえていないのか、聞こえていて無視しているのか、受付で入館証を二枚受け取って、一枚をこのみに渡す。
工場の面談は、朝から詰まっていた。
借りた会議室までの通路は、製造ラインの近くを通る。
湿った紙の、温かい匂いがする。
篠宮が聞き、このみが記録を取る。
ライン長、班長、若手。
半年後の自分の給料がどうなるのか。
ラインは残るのか。
質問の形は違っても、聞きたいことは全員同じだった。
午前の最後は、検査工程の二十代の子だった。
来年、式を挙げるんです、と言った。
相手の親に、会社のことを何て説明すればいいですか、と。
質問の形をしていたけど、中身は、置き場のない不安だった。
篠宮は答えられる部分だけを答えて、答えられない部分は、今は決まっていません、と簡潔だが丁寧に伝えた。
その間、篠宮のノートを取る手は一度も止まらなかった。
記録係のこのみは、面談を聞きながら何度も指が止まりそうになった。