あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
考えすぎだ、と首を振る。
ただ、振っても、また同じことを考えてしまう。
このみは、駅の明かりのほうへ歩いた。
いつもの夜道が、知らない道みたいだった。
水曜は、朝から工場出張だ。
製造部門の個別面談を、現地でまとめてやる。
窓口のこのみも同行することになっていた。
新宿まで出て、そこからは特急で九十分。
隣の席の篠宮は、発車から到着まで、膝の上の資料を読み続けていた。
ページの端に、次々と折り目が増えていく。
珍しく上着を脱いで、シャツの袖を軽くまくっている。
資料をめくる手首で、腕時計が緩く回った。
(この人、本当にずっと仕事してるな)
車窓の景色が、ビルから畑に変わっていく。
このみも面談名簿を開いたけど、三駅ぶんくらいは、ただ窓の外を見ていた。
トンネルで車内が暗くなったとき、ページをめくる篠宮の腕が、肘掛けのこのみの腕に触れる寸前で止まった。
篠宮は気づいてもいない。
触れなかった二センチを知っているのは、たぶん、このみだけだった。
工場の最寄り駅からの道は、どこかで落ち葉を焚くような匂いがしていた。
甲府の空は、本社のあたりより低く見える。
守衛室に会釈して門を入ると、朝礼の号令が遠くから聞こえた。