あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています

若手の女子社員の声だった。
これから会社がどうなるかわからないのに、のんきなものだ。

ただ、確かに壇上の男は目を引いた。
百八十センチはありそうな長身に、片側だけ耳に掛けた黒髪。
切れ長の目に、一瞬、息を呑む。
ドラマ俳優だと言われても、信じただろう。

いつのまにか受付の隣に座っていた千夏が、名簿の上に身を乗り出してきた。

「ねえ、あれが例の首切り屋? ……三百人切った顔に見えなくない?」

「顔で切るわけじゃないでしょ」

そうは言ったものの、このみ自身、経験豊かなもっと年配のコンサルタントが来るものだと思っていた。

「いや、そうだけど……そうだけどさぁ!」

千夏の声が半分裏返っていた。
壇上の男は、誰よりも速い足取りで前へ出た。

「篠宮です」

スライドには、長々とした役職と経歴が並んでいる。
なのに、本人が口にしたのは、名前だけだった。
拍手こそ起こらないが、ざわつく会場で、篠宮はそんな反応なんか見えていないように、速足で壇上の端の席に座った。

彼は席に着くと、鞄から出した一枚の資料に目を落としていた。
質疑応答が始まってから、一度も資料から顔を上げない。

(あの資料、何度も目を通してあるんだ)

受付席からは手元がよく見える。
今朝刷り上がったばかりの資料のはずなのに、全ページに折り目がついている。

質疑の最後、品質保証部の年配の社員が立った。
震える声の、長い質問だった。

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