あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
要約すれば──リストラはあるのか。
ファンドの男が「現時点では何も言えません」と言いかけたとき、篠宮が初めて顔を上げた。
そして、彼は質問者の顔を数秒まっすぐに見て、資料の余白に何かを書き込んだ。
閉会が告げられ、社員たちは口々に何かを言い合いながら講堂を出ていった。
「ねえこのみ、あの人って四階に席できるのかな」
「知らない」
「知らないんだ。人事なのに」
「もう、だから人事でもなんでも知ってるわけじゃないんだって」
このみの返事に、千夏は笑って、それから少しだけ真顔になった。
「……うちの会社も切られる人、出るのかな」
このみは答えなかった。
答えられなかった。
代わりに、聞こえなかったふりをして、名簿の角を揃えた。
撤収を終えた十九時前、名簿と筆記用具を抱えて、別館から本館への渡り廊下を歩く。
二階のガラス張りの廊下は、夏の名残でまだ明るく、西日で一面オレンジだった。
(明日からどうなるんだろ)
オレンジの中でぼんやりそんなことを考えていると、前から、速い足音が近づいてきた。
篠宮だ。
ダークグレイの一目で仕立てが良いと分かるジャケットを腕にかけ、まっすぐこちらへ歩いてくる。
何も後ろめたいことはないのに、なぜか、名簿を抱え直した腕に力が入る。
篠宮は廊下の先を見ていて、目を合わせなければ、歩調も緩めない。
ただ、すれ違う、その半歩手前だった。