あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています

昼に千夏から来ていた『ごはん行こ』に、『ごめん、今日は無理』と返す。
既読はすぐついたのに、返事は来なかった。
今会っても、変に千夏に当たってしまう気がした。

夕方、印刷した引き継ぎの資料を届けに、四階の奥へ行った。

例の部屋の前を通る。
ドアは、今日も開け放たれていた。
検査課の主任は、今日もノートパソコンの前に座っていた。
画面は開いているが、手は動いていない。

足音で気づいたのか、主任がこちらを向いた。
目が合う。

何か言うべきだったのだろうが、何も言えず、会釈だけをした。
まだ決めてない、と言った主任の猶予を、また一日、黙って使ってしまった。

帰りは、渡り廊下を使わなかった。
外階段を回ると三分余計にかかる。
三分ぶん、十一月下旬の外気を胸に入れる。
吸うたび、喉の奥が薄く冷えた。

(あの廊下は、いまは通れないな)

油断すると、あの渡り廊下の夜を思い出してしまいそうだった。

その夜、部屋で、スマホを開いた。
篠宮とのトーク画面には、仕事の連絡しか並んでいない。
その一番下に、指を置く。

──今日は、すみませんでした。

打って、消した。

──違うんです、あれは。

打って、消した。
謝ったら、決意が緩む。
説明したら、ぜんぶ話してしまう。

画面を消して、枕元に伏せた。
それからも、しばらく、伏せたスマホから目が離せなかった。

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