あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
自分でも、ひどい言い方をしていると思う。
沈黙が続く。
このみは腕時計を見た。
「十五分です。私は仕事に戻ります」
このみは篠宮の返事を待たずに立ち上がった。
ドアの手前で、後ろから声がした。
「倉橋さん──」
呼び止める声を、ドアを閉める音で、聞こえなかったことにした。
廊下を半分ほど歩いたところで、大きく息を吐く。
開いた手のひらには、自分の爪が食い込んだ跡が残っていた。
午後、課長の席の横に立って、封筒を差し出した。
課長は封筒をちらりとだけ見て、このみの顔に視線を向ける。
「……理由は聞かん」
「一身上の都合です」
「聞かんと言っとるだろ」
課長は封筒を受け取ると、開けずに、机の一番下の引き出しへ入れた。
「一週間、ここで寝かせる。人事のくせに規定違反だって言うなら、言え。……一週間経ってもお前の気が変わらんかったら、上に上げる」
「私は」
「変わらんかったら、だ」
引き出しの閉まる音が、思ったより大きく響いた。
席に戻って、引き継ぎの一覧を作る。
一番上の行に、品質保証部のあの人の案件を置いた。
対応状況の欄に、完了、と打つ。
打ってから、もう一度だけ、あの返信を開いた。
『しっかりと教えていただけるだけで不安がやわらぎました』。
どうせ自分は逃げるのに。
画面を閉じて、次の行に移る。