あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています

「……その方は、いま」

「さあ、どうしてるかな。辞める日に、花束をくれました。あの子、私が恨んでると思ってるんだろうなあ。恨んでないのに。一回ぶんの食い下がりで、私はじゅうぶんだったのに」

そのとき、湊の鞄にはこのページが入っていた。

削られた項目と、それを入れようとした子。
付箋のページと目の前の話が、一本の線になった。
会社の名前は、聞かなかった。
聞かなくても、ページの余白に、勉強会の日付と社名の控えがある。

だから、この買収案件の社名を見たとき、半分は分かっていた。
確かめたのは、変更履歴の名前が同じかどうか、それだけだった。

彼女は知らない。
原案を読んだ人間が社内にいることも、八重樫がいま、教える仕事で生き直していることも。
恨まれていると思ったまま、今度は自分が黙って消える側に回ろうとしている。

(それだけは、させない)

ページを閉じて、湊はスマホを手に取った。

連絡先の一覧を、二年前の名前まで遡る。
二十二時半。
非常識な時間だと分かっていたが、電話せずにはいられなかった。

三コール目で、繋がった。

「夜分にすみません。ピースフェリーの篠宮です。ご無沙汰しています」

電話の向こうで、懐かしい声が、どうかしましたか、と言っている。

「八重樫さん。折り入って、お願いしたいことがあります」

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