あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
代表の声は、変わらなかった。
事実関係。
稟議書の決裁欄には、彼自身の名前が印字されている。
藤堂は、口を開いて、閉じた。
そして、もう一度開いたとき──初めて、声の形が崩れた。
「────私は、この会社を守ってきたんだ」
手のひらが、机を打った。
湯呑みが小さく跳ねて、誰かが息を呑んだ。
「四十年だ。四十年、この会社にいる。十五年前だってそうだ、あのとき私が動かなければ、会社ごと沈んでいた。首を切れ切れと騒ぐだけなら誰にでもできる。切らずに、辞めた形にして、会社の名前を守って、恨まれ役を誰が引き受けてきたと思っている。私だ。ずっと、私がやってきたんだ」
演説の声ではなかった。
初めて聞く、生の声だった。
そして藤堂は、篠宮を見た。
「それを、外から来て三月の君が。人を切って回るだけの、君のような人間に──私の何が、分かる」
篠宮は、目を逸らさなかった。
答えは、一つだけだった。
「切らずに済ませた分のつけを、いま、八百人が払っています」
声は、最後まで平らだった。
藤堂の口が、動いた。
動いて、言葉は出てこなかった。
助けを探すように、隣の役員を見た。
その役員は、資料に目を落とした。
反対側の役員も。
奥の役員も。
順番に、ひとりずつ。
四十年かけて作った「話の分かる」顔の、向け先が、もうどこにもなかった。