あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています

言葉は、あるはずだった。
傘の半分とか、十七時半の枠とか、折り目だらけの資料とか。
あるのに、どれも口に出すと違う気がして、選んでいるうちに時間が経った。

(……いっぱいあるのに、なんで出てこないんだろう)

「もういい、その顔が答え」

「何も言ってないけど」

「顔が全部白状してる。ごちそうさまです」

千夏は満足そうにトレーへ戻った。
それから、ふと、箸の先を少し下げた。

「……ねえ。私がこれ、言いふらすかもって、心配してない?」

「してない」

即答すると、千夏は変な顔をした。

「即答じゃん」

「千夏は、私が止めてって言ったことは、言わない人だから」

「…………そういうとこだぞ、親友」

千夏は目のあたりを一回こすって、味噌汁を飲み干した。
お椀を置いて、追撃が再開された。

「で? 手ぇ繋いだ? てか、キスは?」

「……その質問には、お答えできかねます」

とっさに、三年物の窓口の声が出た。

「その声で流すの、ずるくない?」

「規定ですので」

「出た」

千夏は笑って、それから、少しだけ声を落とした。

「……よかったね。ほんとに。この三か月、ずっと顔が硬かったから」

噂の頃の話は、それ以上しなかった。
しないでいてくれるのが、千夏だった。

午後、スマホに千夏からスタンプが一枚だけ届いた。
泣き笑いの猫だった。
ジト目の猫は、もう出てこないらしい。

< 99 / 117 >

この作品をシェア

pagetop