君を好きだと知った日-あの日、恋だと知らなかった――忘れた頃に、もう一度。

第8部 忘れた頃に

それから、時間が流れた。

最初の頃は。

毎日のように彼のことを考えていた。

SNSを開けば彼のページを見て。

DMを開けば過去の会話を読み返して。

何か面白いことがあれば、

「話したらどういう反応するかな」

なんて考えていた。

けれど。

いつの間にか。

そういうことが少なくなっていた。



大学の課題。

実験。

趣味。

韓国語。

友達との予定。

新しく知り合った人。

行きたい場所。

やりたいこと。

毎日は思っていたより忙しくて。

そして、思っていたより楽しかった。

気づけば。

彼のことを考えない日が、一日。

二日。

一週間。

少しずつ増えていった。



ある夜。

ふと、SNSを開いた。

何となく。

本当に何となく。

ストーリーを眺める。

友達の旅行。

誰かのご飯。

大学の写真。

いつものように指を動かしていく。

そして。

指が止まった。

見覚えのあるアイコン。

一瞬。

誰だか分からなかった。

しばらく見つめて。

「あ……」

声が漏れた。



久しぶりだった。

あまりにも久しぶりで。

一瞬、本当に彼なのか分からなかった。

ストーリーを開く。

そこには。

以前より少し雰囲気が変わった彼がいた。

相変わらず、真面目そうな内容。

でも。

その写真の端に。

少しだけ、あの頃と変わらない無邪気さが見えた。

「……元気だったんだ」

ぽつり。

それだけ呟いた。



以前なら。

きっと。

すぐにDMを開いていた。

「久しぶり!」

なんて送っていたかもしれない。

でも。

今は違った。

スマートフォンを持ったまま。

しばらく迷った。

送ろうかな。

どうしようかな。

別に。

もう以前ほど気になっているわけではない。

……たぶん。

そう思って。

ストーリーを閉じた。



その日の夜。

結局。

何も送らなかった。

「まあ、元気そうでよかった」

それだけ。

そう思って、スマートフォンを置いた。

ところが。

翌日。

また彼のストーリーが上がった。

そして。

その次の日も。

少しずつ。

彼がSNSに戻ってきたことが分かる。

どうやら。

長い間、何かに集中していたらしい。

以前話していた司法試験のこと。



「そっか……」

あの頃。

彼とのDMが減っていった理由。

今なら、少し分かる気がした。

私はもう。

それを寂しいとは思わなかった。

いや。

正確には。

少しだけ寂しかった。

でも。

それ以上に。

「頑張ってたんだな」

と思った。



そして。

数日後。

彼のストーリーに。

一枚の写真が上がった。

日本の風景だった。

私は思わず二度見した。

「……え?」

もう一度見る。

間違いない。

日本。

しかも。

見覚えのある場所だった。



少し迷って。

私は久しぶりにDMを開いた。

指が止まる。

最後に自分から送ったのは、いつだっただろう。

少しだけ緊張する。

でも。

昔ほどではない。

私は短いメッセージを送った。



返信は。

思っていたより早かった。

それだけなのに。

胸が少しだけ跳ねた。

……懐かしい。

この感じ。

以前は毎日のようにあった。

彼から返事が来ること。

それを見て笑うこと。

スマートフォンを握っていること。

でも。

今の私は。

あの頃とは違う。



少し話を続ける。

どうして日本に来たのか。

どこへ行くのか。

何日いるのか。

どうやら、試験を終えたご褒美に日本へ来ているらしい。

私は画面を見つめた。

司法試験の勉強。

あれだけ頑張っていたものが。

一つの区切りを迎えたらしい。

「お疲れさま」

そう送る。

そのあと。

少し間があって。

「そういえば、家が近くなんだよね?」

私は画面を見つめた。



近く。

確かに。

以前なら。

韓国と日本という距離があった。

会うには飛行機に乗らなければならない。

簡単には会えない。

でも。

今は。

同じ国にいる。

それだけで。

昔とは違う。



彼から。

「もし、時間あったら...」

その文字を。

私はしばらく見つめていた。



不思議だった。

あれだけ会いたかった人なのに。

あれだけ好きだった人なのに。

今は。

すぐに「会いたい」と返せなかった。

もちろん。

会いたくないわけじゃない。

ただ。

昔みたいに。

「会いたい、会いたい」

と心の中で騒ぐ感じではなかった。

私は少し考えてから、返した。



返信が来る。

「じゃあ、○日どうですか?」

私は予定を確認する。

空いている。

少しだけ笑った。

そしてまた送信。



画面を閉じる。

私は椅子にもたれた。

そして。

小さく息を吐いた。

「……また会うんだ」

不思議な感じがした。

一度。

好きになった。

一度。

振られた。

一度。

忘れようとした。

そして。

本当に少しずつ、忘れていた。

それなのに。

まるで。

何もなかったみたいに。

また。

会うことになった。



その夜。

ベッドに入ってから。

私はふと、昔のことを思い出した。

カフェで見た笑顔。

目尻がくしゃっと下がって。

口元が大きく開く。

あの無邪気な笑顔。

自転車から守ってくれたときの腕。

日本語を聞かれたこと。

韓国語を訂正されたこと。

そして。

「他の男、紹介しようか?」

と言われたこと。

あのときの痛み。

全部。

もう過去のことだった。



「……今、会ったらどうなるんだろ」

小さく呟く。

以前なら。

答えは分かっていた。

きっと。

また好きになる。

そう思っていた。

でも。

今は。

分からない。

私は一度。

この人を忘れかけた。

自分の生活を取り戻した。

彼がいなくても。

ちゃんと笑えるようになった。

だから。

今度会ったとき。

昔と同じ気持ちになるとは限らない。



そう思った。

それでも。

約束の日が近づくにつれて。

少しだけ楽しみになっていった。

何を着ていこう。

どこで会おう。

何を話そう。

そんなことを考える。

そして。

ふと気づく。

私は。

また服を選んでいる。



「……あれ?」

思わず笑った。

昔と同じだ。

でも。

少し違う。

昔は。

彼にどう見られるかが気になった。

今は。

久しぶりに会う友達に、少しでも綺麗に見えたらいい。

そんなくらい。

……本当に、それだけ。

そう自分に言い聞かせながら。

私はクローゼットの前に立った。



再会の日。

駅へ向かう道を歩く。

胸が少しだけ騒がしい。

でも。

昔ほどではない。

そして。

待ち合わせ場所が見えてきた。

人混みの向こう。

見覚えのある姿があった。

一瞬。

足が止まる。



彼がこちらに気づいた。

そして。

あの頃と同じように。

ふっと笑った。

目尻が、くしゃっと下がる。

口元が、大きく開く。

あの笑顔。

ずっと忘れていたはずなのに。

一瞬で思い出した。



胸の奥が。

小さく跳ねた。

私は思わず笑った。

「……久しぶり」

彼も笑う。

「久しぶりです」

その声を聞いた瞬間。

私はようやく気づいた。

忘れたと思っていたものは。

本当に消えてしまったわけではなかったのかもしれない。

ただ。

少しだけ。

眠っていただけだったのかもしれない。

そして。

その答えを知ることになるのは。

この日の帰り道だった。
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