[新連載] 恋するだけでは、終われない / 恋したことなら、忘れない
第五話
……修学旅行初日の、朝。
本来の集合時刻より、一時間も前にやってきたにもかかわらず。
駅のコンコースでわたしたち『五人』は。
早速『あの顧問』に……裏切られた。
「月子ちゃん、これ」
どことなく目の座った千雪が。
スマホに届いたという、佳織先生からのメッセージを見せにくる。
読む気にならないわたしは。
「海原くん、お願い」
そのまま彼女のスマホを彼に渡すと。
「『六人』、そろったかな?」
律儀な部長は、先生からのメッセージをわざわざ読みあげる。
「……虚しすぎますね」
「だったら読むな、バカ」
「ええっ……」
寝不足の由衣は、海原くんに容赦がなく。
「でも五人一緒だから、いいんじゃ・な・い?」
意外にも朝型の姫妃が、愛想を振るう。
「海原くん、あとできちんと叱ってちょうだい」
「僕が、ですか?」
「……ほかに誰も、いないじゃない」
あとの電車で、まにあうのなら。
もう一度『制服』に、仕上げのアイロンをかけたかったわたしは。
「修学旅行だからこそ、『折り目』の正しさが大切なの」
「へ?」
彼に思わず、『制服について』熱弁しそうになり。
「と、とにかく。よろしくお願いね」
くる気のない、『六人目』の先生をあてにせず。
準備をはじめようと、うながした。
「オッ・ケー」
「了解しました」
「いくよ、海原」
それぞれが散ったあとの、まだ『ほかの生徒がいない』駅のコンコース。
そこでわたしがふと視線を、離れた柱に向けたところ。
……『かわいい』女子高生と、目があった。
いや、この『かわいい』というのは。
わたしの数少ない趣味でもある『制服』についての感想で。
別にその子の『外見』について、論評したものではない。
とはいえ……その子については。
仮に放送部の中にいたとしても。
十分に、美的存在感を発揮しそうではあるものの。
「他校生なので、関係ないわね」
わたしは心の中で、ボソリとつぶやいた。
そんな彼女は、ごていねいにも。
登校するには不似合いな、大きなスーツケースから少し離れると。
わざわざわたしに、優雅に一礼してくれる。
見知らぬ生徒からの、友好的な行為に対して。
わたしは『社交的に』返礼したものの。
正直なんだか……『嫌な予感』がした。
他人に対して、失礼なものの見方だとは自覚しつつも。
意外とあたる、この予感。
すると彼女は、友人でもあらわれたのか。
ここからでもわかるほどに瞳を輝かすと。
荷物を置いたまま、ゆっくりと歩きだす。
柱が重なり、こちらからは進む先が隠れて見えないものの。
ただそのとき、わたしの中では確実に。
胸騒ぎが大きく……なっていた。
……サンドウィッチ、準備オッケー。
しかも結構……おいしそう。
「よかったな、高嶺」
「でしょ?」
佳織先生が、どうしても必要だからとねじこんできたのは。
移動中の列車で食べる、『軽食(サンドウィッチ指定)』で。
「由衣、あとはまかせたよっ!」
勝手に『選定係』にされたわたしは、そのカタログを熟読した上で。
カツサンドと、あと二種類を用意した。
「絶対、カツサンドがおすすめだからね」
「わかったわかった、先に選んでいいからな」
「えっ、本当?」
「まぁそれくらい……頑張ってるんだしいいんじゃないか?」
……たいていのことに『堅物』なはずのアンタにしては、珍しい。
「じゃぁ海原は、どれにする?」
「別に、残ったのでいいよ」
「それじゃダメだし! わたしが選んであげるから!」
それだと、絶対カツサンドになるといわれて。
「なんでわかるの?」
思わずわたしは、問いかける。
「えっ、違うのか?」
「正解だけど?」
「なんだよ、それ……」
……だって修学旅行だから、楽しみたいじゃん?
実際は『委員会』の仕事が全然追いついていないから。
ただ忙しいだけで、終わりそうな気がするけれど。
アンタやみんなとすごせるなら……それもありにしてあげる。
だからここで少しくらい。
お疲れのアンタに、特別に笑顔でも見せてやろう。
そう思ったわたしが、もう一度顔を海原に向けたその瞬間。
……隣にいたはずのアイツが、いなくなっていた。
「海原?」
突然歩くのをやめたアイツは。
たった二歩だけ、うしろにいる。
「なにしてんの?」
このタイミングでボーッとするとかなしだし。
ちゃんと一緒に、歩いてよ。
「ねぇ聞いてる、海原?」
ただ、アイツの視線は。
わたしとはまったく別の方向に釘づけで。
つられてわたしも……追いかけた。
……誰?
見たことのない制服を着たその子は、文句なしにかわいいけれど。
アイツが『外見』で誰かに見とれるなんて。
絶対……ありえない。
一方の彼女は、海原の視線をたっぷりと受けとめつつ。
ゆっくりとアイツに、近づいていて。
……たった二歩の、距離なのに。
その子とアイツの世界にはいれず。
わたしはその場に……立ちつくす。
……ねぇ、誰なのその子?
その子はわたしのことなど気にとめず。
アイツの前で、ピタリと動きをとめると。
スカートの先が、弾むように何度か踊る。
……その裾があたるかあたらないかの、絶妙な距離。
大きく目を見開いたままの、海原に。
彼女はニコリとほほえむと。
「ひさしぶりだね、昴くん」
ごくあたり前に、アイツの名前を口にする。
……いったいなんなの、その距離感?
「昴くん?」
待ち遠しくてたまらないというその声が。
もう一度なれなれしく、アイツを呼ぶと。
アイツはそのあと、小さくうなずいてから。
わたしが一緒にすごした五年のあいだ。
一度も聞いたことがなかった『その子』の名前を。
迷うことなく……口にした。
