全てあなたに捧げるために

第5節 幼なじみ side桂華

☪︎


「……ね、どう思う?凪」

桂華がそう訊ねると、

「多少、強引な手を使わない限り、翠は永遠に執事の枷から逃れられないと思う。─透雅からのお願いでさ、水無瀬の爺さんに気付かれるといけないからって、俺が翠の両親を探し出して、連絡を取ったけど……」

「ああ!そういえば、そんな話出てたね!連絡、ちゃんと取れたんだ?」

「取れたよ。うちの情報網だと、すぐに突き止められたし」

「まぁ、それもそっか。─それで?」

桂華は先を促した。
酷い扱いを受けるとわかっていて、致し方なしとはいえ、大の大人ふたりが、幼子を地獄へ置き去りにした意味は。

「簡単に言えばね、翠のお父さんもおなじ」

「おなじ?」

「そ。怒鳴られたら、理詰めされたら、動けなくなるんだ。父親に逆らえない。特に、娘の全てを賭けられたら、頷き、従わざるを得なかったらしい」

「すべてって……」

「水無瀬の爺さん、今でこそ、あの躾で済んでるらしい。自分もされたとか言いながら、蔵に何日も閉じ込められて、自分の悪い所を永遠に考えさせられて、成績も常にトップでなければ、食事よりも、睡眠よりも、勉強漬け。その生活で、心を壊した翠のお父さんは翠を同じ目に負わせると言われ、また追い詰められていったらしい」

「何それ。水無瀬の伝統芸ってこと?」

「そういうことなんだと思う。翠のお母さんは入院を繰り返すような、身体的に弱い人で。翠の両親はね、病院で出会って、恋に落ちたんだって。妻と娘を抱えて、爺さんから逃げる自信がなかったと話してくれたよ」

「っ、……それでも!それを行うことが、親の役目、親の責任でしょう」

怒りで思わず吐き捨てると、困った顔で凪は笑いながら。

「それが言えるのは、親に恵まれた俺達だからだよ。桂華」

「……」

「親に、家に、お金に、愛に恵まれて、困る事なんて一切なく、わがままだって聞いて貰って。でも、その全てがなかったらどうする?個を認められず、押さえ付けられ、全ては生涯の主人のために……って、物心ついたばかりの頃から。個なんて完成しないよ。”望むことすらも罪深いものだと感じてしまうんだ”と、彼は言っていたよ」

そう言われてしまうと、確かに桂華は恵まれている。
両親に愛され、甘やかされ、友人に恵まれ、金銭的に不自由をしたこともなければ、誰かに何かを強制された記憶もない。

そんな自分が、翠の扱いに憤ることは間違いかもしれない。─それでも。


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