先輩、好きになってください
昼休み。
日向は圭と一緒に廊下を歩いていた。
「なあ圭、今日部活何時から?」
「んー、たぶんいつも通り」
「そっか」
そんな話をしながら歩いていると、前から綾花が歩いてくるのが見えた。
「あ、綾花先輩」
日向が声をかけようとした、そのとき。
「綾花」
綾花の隣に、見知らぬ男子が並んだ。
「ん?」
「これ、落としてた」
「え、ほんと?」
男子が綾花に何かを渡す。
「あ、ありがとう!全然気づかなかった」
「気をつけろよ」
「はーい笑」
二人は自然に笑い合っている。
「……」
日向の足が止まった。
「……誰?」
思わず口から出た。
「ん?」
圭が日向を見る。
「誰って?」
「あの人」
「ああ、神谷先輩」
「神谷……?」
「神谷湊〈かみやみなと〉。二年で、綾花先輩と同学年」
「……ふーん」
日向はもう一度、二人を見る。
「仲いいの?」
「まあ、結構仲いいんじゃない?」
「……へえ」
圭が日向の顔を見る。
「お前、なんか怖いよ」
「は?」
「めっちゃ気にしてるじゃん」
「別に」
「いや、めっちゃ気にしてる」
「うるさい」
そのとき、綾花がこちらに気づいた。
「あ、松宮くん!」
「……!」
綾花が笑顔で近づいてくる。
「こんにちは」
「こんにちは、綾花先輩」
「圭も!」
「こんにちは、綾花先輩」
「二人とも今から教室?」
「そうです」
綾花が笑う。
「そっか」
その横には、さっきの男子がいる。
「綾花、行く?」
「あ、うん!」
綾花が男子を見る。
「じゃあまたね、松宮くん」
「……はい」
「圭もまたね!」
「はい、綾花先輩」
綾花はその男子と一緒に歩いていった。
日向はその背中を黙って見つめる。
「……」
「日向」
「ん?」
「おまえ、顔」
「うるさい」
「神谷先輩、綾花先輩のこと好きなんじゃない?」
「……」
日向が圭を見る。
「……マジ?」
「知らんけど」
「なんでそんなこと言うんだよ」
「いや、普通に仲いいし」
「……」
日向はもう一度、二人の後ろ姿を見る。
胸の奥が、なんとなくざわついていた。
*
放課後。
廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「松宮くん」
振り返る。
「綾花先輩」
綾花が小走りで近づいてくる。
「今日、なんか静かじゃない?」
「そうですか?」
「うん。いつももっと喋るじゃん」
「……そうですかね」
「うん」
綾花が不思議そうに顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「別に何もないです」
「ほんと?」
「ほんとです」
少しだけ沈黙が流れる。
日向は迷った。
でも、気づけば口から出ていた。
「……先輩って」
「ん?」
「神谷先輩と仲いいんですね」
「湊くん?」
「……はい」
綾花は少し考えて、
「うん、仲いいよ」
と笑った。
「同じ学年だし、よく話すの」
「……そうなんですね」
「うん。優しいし、面白いよ」
「……へえ」
「松宮くんも話してみたら?」
「いや、別に」
「そう?」
綾花は首を傾げる。
「神谷先輩、いい人だよ?」
「……そうでしょうね」
「?」
綾花は不思議そうな顔をした。
「松宮くん、今日なんか変だよ」
「変じゃないです」
「そう?」
「……はい」
綾花は少し笑った。
「じゃあ、また明日ね」
「……はい」
綾花が去っていく。
その背中を見ながら、日向は小さく息を吐いた。
――なんだよ。
別に、付き合ってるわけじゃない。
先輩が誰と話そうが、誰と仲良くしようが。
俺には何も言う権利なんてない。
それなのに。
「……嫌だな」
初めてだった。
綾花先輩の隣にいる誰かを見て、
こんなふうに思ったのは。
そして日向はまだ知らなかった。
神谷湊が、自分と同じ人を好きだということを。
日向は圭と一緒に廊下を歩いていた。
「なあ圭、今日部活何時から?」
「んー、たぶんいつも通り」
「そっか」
そんな話をしながら歩いていると、前から綾花が歩いてくるのが見えた。
「あ、綾花先輩」
日向が声をかけようとした、そのとき。
「綾花」
綾花の隣に、見知らぬ男子が並んだ。
「ん?」
「これ、落としてた」
「え、ほんと?」
男子が綾花に何かを渡す。
「あ、ありがとう!全然気づかなかった」
「気をつけろよ」
「はーい笑」
二人は自然に笑い合っている。
「……」
日向の足が止まった。
「……誰?」
思わず口から出た。
「ん?」
圭が日向を見る。
「誰って?」
「あの人」
「ああ、神谷先輩」
「神谷……?」
「神谷湊〈かみやみなと〉。二年で、綾花先輩と同学年」
「……ふーん」
日向はもう一度、二人を見る。
「仲いいの?」
「まあ、結構仲いいんじゃない?」
「……へえ」
圭が日向の顔を見る。
「お前、なんか怖いよ」
「は?」
「めっちゃ気にしてるじゃん」
「別に」
「いや、めっちゃ気にしてる」
「うるさい」
そのとき、綾花がこちらに気づいた。
「あ、松宮くん!」
「……!」
綾花が笑顔で近づいてくる。
「こんにちは」
「こんにちは、綾花先輩」
「圭も!」
「こんにちは、綾花先輩」
「二人とも今から教室?」
「そうです」
綾花が笑う。
「そっか」
その横には、さっきの男子がいる。
「綾花、行く?」
「あ、うん!」
綾花が男子を見る。
「じゃあまたね、松宮くん」
「……はい」
「圭もまたね!」
「はい、綾花先輩」
綾花はその男子と一緒に歩いていった。
日向はその背中を黙って見つめる。
「……」
「日向」
「ん?」
「おまえ、顔」
「うるさい」
「神谷先輩、綾花先輩のこと好きなんじゃない?」
「……」
日向が圭を見る。
「……マジ?」
「知らんけど」
「なんでそんなこと言うんだよ」
「いや、普通に仲いいし」
「……」
日向はもう一度、二人の後ろ姿を見る。
胸の奥が、なんとなくざわついていた。
*
放課後。
廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「松宮くん」
振り返る。
「綾花先輩」
綾花が小走りで近づいてくる。
「今日、なんか静かじゃない?」
「そうですか?」
「うん。いつももっと喋るじゃん」
「……そうですかね」
「うん」
綾花が不思議そうに顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「別に何もないです」
「ほんと?」
「ほんとです」
少しだけ沈黙が流れる。
日向は迷った。
でも、気づけば口から出ていた。
「……先輩って」
「ん?」
「神谷先輩と仲いいんですね」
「湊くん?」
「……はい」
綾花は少し考えて、
「うん、仲いいよ」
と笑った。
「同じ学年だし、よく話すの」
「……そうなんですね」
「うん。優しいし、面白いよ」
「……へえ」
「松宮くんも話してみたら?」
「いや、別に」
「そう?」
綾花は首を傾げる。
「神谷先輩、いい人だよ?」
「……そうでしょうね」
「?」
綾花は不思議そうな顔をした。
「松宮くん、今日なんか変だよ」
「変じゃないです」
「そう?」
「……はい」
綾花は少し笑った。
「じゃあ、また明日ね」
「……はい」
綾花が去っていく。
その背中を見ながら、日向は小さく息を吐いた。
――なんだよ。
別に、付き合ってるわけじゃない。
先輩が誰と話そうが、誰と仲良くしようが。
俺には何も言う権利なんてない。
それなのに。
「……嫌だな」
初めてだった。
綾花先輩の隣にいる誰かを見て、
こんなふうに思ったのは。
そして日向はまだ知らなかった。
神谷湊が、自分と同じ人を好きだということを。