先輩、好きになってください

先輩、俺負けませから

放課後。

バスケ部の練習が終わり、綾花が体育館から出てくる。

「綾花」

声をかけたのは湊だった。

「湊くん?どうしたの?」

「帰る?」

「うん」

「じゃあ、一緒に帰ろ」

「いいよ」

二人が並んで歩き始める。

「今日疲れたね」

「うん。でも楽しかった」

「今日、シュート結構入ってたじゃん」

「ほんと?」

「うん。ちゃんと見てた」

「ありがとう笑」

綾花が嬉しそうに笑う。

湊はその横顔を見つめる。

――やっぱり、好きだ。

そんな二人の後ろから。

「綾花先輩」

聞き慣れた声がした。

振り返ると、日向が立っていた。

「あ、松宮くん」

「こんばんは」

「今から帰るんですか?」

「うん」

「じゃあ俺も一緒に帰っていいですか?」

綾花が笑う。

「もちろん!」

「……」

湊が日向を見る。

「松宮くんも帰るんだ」

「はい」

「そっか」

一瞬。

二人の間に、妙な空気が流れた。

「じゃあ三人で帰ろう!」

綾花が何も知らずに言う。

「……そうですね」

日向が笑う。

「うん」

湊も笑った。

三人で歩き始める。

綾花は真ん中。

その両側を、日向と湊が歩いている。

「今日ね、凛花が――」

綾花が楽しそうに話す。

日向も湊も、ちゃんと相槌を打つ。

でも。

二人の視線だけは、時々ぶつかった。

「……」

「……」

先に口を開いたのは湊だった。

「松宮くん」

「はい?」

「綾花のこと、好きなの?」

綾花が話している声を遮らないくらいの、小さな声。

日向は少しだけ目を細めた。

「……だったら何ですか?」

「いや、別に」

湊は前を向いたまま言う。

「俺も好きだから」

「……」

日向の足が、一瞬止まりそうになる。

でもすぐに歩き出す。

「そうですか」

「うん」

「じゃあ」

日向は湊を見る。

「俺も負ける気ないです」

湊が少し笑う。

「俺も」

二人の間に、また静かな火花が散る。

「ねえ、二人とも」

綾花が振り返る。

「さっきから何話してるの?」

「何でもないですよ」

「うん。何でもない」

二人とも、何事もなかったように笑う。

「そう?」

綾花は首を傾げる。

「なんか今日、二人とも仲良くない?」

「……」

「……」

日向と湊が同時に綾花を見る。

「「そうですか?」」

「うん!」

綾花は嬉しそうに笑った。

「仲良くなってくれたならよかった!」

「……」

「……」

――違う。

そう思ったのは、二人とも同じだった。

仲良くなりたいわけじゃない。

譲りたくないだけだ。

誰よりも綾花の隣にいたい。

その気持ちだけは、二人とも同じだった。
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