先輩、好きになってください
体育祭準備も終盤に差しかかった頃。

「これ、こっちに運べばいい?」

「うん、お願い!」

綾花は朝からずっと動き回っていた。

飾りつけをしたり、道具を運んだり。

「綾花、ちょっと休んだら?」

湊が心配そうに声をかける。

「大丈夫、大丈夫!」

「ほんと?」

「うん!」

そう笑った直後だった。

「……あれ」

綾花の視界が、ふっと揺れた。

「綾花先輩?」

近くにいた日向が気づく。

「大丈夫……」

そう言ったものの、足元がふらつく。

「先輩!」

日向が慌てて駆け寄る。

「……ごめん、ちょっと……」

「大丈夫ですか?」

「うん……たぶん」

「たぶんじゃないでしょ」

日向が綾花の顔を覗き込む。

「顔、真っ青ですよ」

「そう?」

「保健室行きましょう」

「でも、準備が――」

「俺がやるんで」

「でも……」

「先輩」

少し強い声。

「今は自分のこと優先してください」

綾花は少し驚いた顔をした。

「……うん」

日向は綾花の前にしゃがむ。

「乗ってください」

「え?」

「おんぶします」

「いやいや、大丈夫だよ!」

「大丈夫じゃないから言ってるんです」

「でも……」

「ほら」

日向が振り返る。

「早く」

「……ごめんね」

綾花は少し迷ってから、日向の背中に乗った。

「重くない?」

「全然」

「ほんと?」

「むしろ軽すぎです」

「そう?」

「はい」

日向は綾花を背負って歩き始める。

綾花は少し恥ずかしそうに、日向の肩に手を置いた。

「……ごめんねー」

「何がですか?」

「迷惑かけちゃって」

「迷惑じゃないです」

「でも……」

「俺、先輩のこと助けられてよかったです」

「……」

しばらくして。

「日向くん」

「はい?」

「ほんと頼りになるね」

その言葉に、日向が少し笑う。

「……俺、結構頼りになるんですよ」

「ふふっ」

「だから」

少しだけ声を落とす。

「もっと頼ってください」

「……うん」

「俺、ほんとに本気ですよ」

「……え?」

日向は振り返らない。

ただ、まっすぐ前を向いて歩く。

「先輩が思ってるより、俺、本気です」

「……」

綾花は何も言えなかった。

今まで何度も言われてきた。

可愛い。

好き。

俺、本気ですよ。

いつもの、日向くんの言葉。

そう思っていた。

でも。

今日、背中越しに聞いたその言葉は。

なぜか、いつもと違って聞こえた。

胸が、少しだけ速くなる。

「……日向くん」

「はい?」

「……なんでもない」

保健室に着くまで。

綾花はずっと、日向の背中に乗っていた。

そして。

初めて思った。

――私。

日向くんのこと、ちょっと意識してるのかもしれない。
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