先輩、好きになってください

先輩、俺勝ちますから

朝。

校庭には、いつもよりたくさんの生徒が集まっていた。

「ねえ、あや。これどう?」

凛花が赤いはちまきを頭に巻きながら、鏡を覗く。

「かわいい!」

「ほんと?」

「うん!あやもやってみよ」

「私も?」

「せっかくだし!」

二人で髪を少しアレンジして、はちまきを結ぶ。

「できた!」

「どう?」

「めっちゃかわいい!」

「りんもかわいいよ」

「でしょ?笑」

二人で笑い合う。

「じゃあ、行こっか」

「うん!」



体育祭が始まった。

開会式が終わり、各クラスがそれぞれの場所へ移動する。

綾花が友達と話していると、

「綾花先輩」

「ん?」

振り返る。

日向だった。

「おはよう、日向くん」

「おはようございます」

日向は綾花を見て、少し黙る。

「……?」

「今日、雰囲気違いますね」

「え?」

「髪型も」

日向が少し笑う。

「かわいいです」

「……ありがとう?」

綾花は照れながら笑った。

「じゃあ、俺行きますね」

「うん、頑張ってね」

日向が去っていく。

その少し後。

「綾花」

「湊くん!」

湊が近づいてくる。

「今日、なんか雰囲気違うね」

「ほんと?」

「うん。かわいい」

「ありがとう!」

綾花は嬉しそうに笑う。

――今日は、いつもより少しだけ特別な日。



午前の競技が進んでいく。

そして。

「次、騎馬戦!」

男子の騎馬がグラウンドへ入ってくる。

日向もその中にいた。

「日向!」

圭が声をかける。

「行くぞ!」

「おう!」

騎馬戦が始まる。

そして――

日向の前に現れたのは。

「……神谷先輩」

「松宮くん」

二人の騎馬が向かい合う。

「負けませんよ」

日向が笑う。

「俺も負けるつもりないよ」

湊も笑う。

周りには聞こえないくらいの声で。

「……綾花のこと」

「……」

「譲るつもりないから」

日向の目が変わる。

「俺もです」

次の瞬間。

二つの騎馬がぶつかった。

体育祭の歓声の中。

二人だけは、真剣だった。



午後。

次の競技は借り物競走。

「位置について!」

選手たちが並ぶ。

日向もその中にいた。

「よーい!」

パンッ!

一斉に走り出す。

日向が紙を拾う。

「……」

紙を開く。

そこに書かれていたのは。

『好きな人』

「……え」

日向の目が止まる。

顔を上げる。

少し離れたところに、綾花がいる。

友達と話しながら笑っている。

日向は一瞬だけ迷って。

そのまま綾花のところへ走っていく。

「……先輩!」

「え?」

「ちょっと来てください!」

「え、私?」

「はい!」

日向が綾花の手を取って、ゴールへ向かう。

「え、ちょっと待って日向くん!?」

「すみません!」

二人でゴールへ駆け込む。

周りから歓声が上がる。

「借り物は!?」

係の生徒が紙を見る。

「……『好きな人』!」

「え!?」

綾花が驚く。

日向は少し照れながら笑った。

「……俺、これしか思いつかなかったんで」

「え、どういうこと?」

「……秘密です」



体育祭が終わったあと。

校舎へ戻る途中。

「日向くん」

「はい?」

「さっきの借り物競走……」

「はい」

「私、借りちゃって大丈夫だったの?」

「……」

日向は少し笑った。

「先輩」

「ん?」

「借りちゃってすみませんでした」

「え?」

「でも」

少しだけ照れたように笑う。

「俺、あのお題見た瞬間、先輩しか思いつかなかったんで」

「……」

綾花の頬が、少しだけ赤くなる。

「……そっか」

「はい」

「……ありがとう」

「どういたしまして」

二人は並んで歩く。

綾花は何も言わなかった。

でも。

胸の奥が、また少しだけ熱くなっていた。

――昨日より。

ほんの少し。

日向くんのことが、気になる。
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