通りすがりの俺様
翌朝、いずるはロビーで佐保子に捕まった。
「矢端さんが一人じゃなかったなんて」
いや、『矢端さん』は一人だよ。
よく似た人がいただけだよ。
同じ名字の、と思っていると、
「ミステリアスな人だと思ってたのに。
いつも印象違うから」
と佐保子は言う。
そりゃ、別人だからね……。
「それにしても、なんでいずるの方が見破れるのよっ。
愛があるのっ?」
許すまじっと言われてしまった。
いや、愛はないんですが……。
そんなしょうもないことで揉めていると、ちょうど矢端が通りかかった。
昨夜の話をすると、
「あ~、秀に会ったんだ」
と笑われる。
なにか言ってた? と問われ、いずるは少し考える。
「ああ、そうだ。
佐保子に、また呑もうねって言ってました」
そこで、ハッとしたように佐保子は言った。
「そう……そうよっ。
矢端さんと呑みに行かなくちゃっ。
いずるっ、来ないでよ」
いや、なんでだ……。
まあ行くつもりもないけど。
「だって、いずるの方が矢端さんに愛があるかも」
ないです。
あと、ここにも矢端さんがいるので、違う呼び方して欲しいです。
あとそれと、ロビーに声が響いています……。