通りすがりの俺様
 佐保子は矢端を見つめ、
「ああっ、でも、選べないっ」
と平和なことを言いながら、去っていった。

 その後ろ姿を見送りながら、
「……秀、君になにか言ってた?」
と矢端がもう一度、訊いてくる。

「特には――。
 でも、もしかして、矢端さんがいつか言ってたという、私に興味がない、僕はね、というのは、同じ顔の秀さんは私に興味があるということでしょうか?」

 ああ、恋愛的な意味ではなくて、といずるは言った。

「兄がうちの親戚に矢端という名前がいるのか調べています」

 そこで矢端は笑って言った。

「調べてる、なんだ?
 そこは言い切った方がいいよ」

 でもそうだよ、と矢端は言う。

「うちは遠い親戚なんで、たいしたものもらってないけど。
 藤間くんとやらと同じ感じかな。

 だからこそ、近い親族はなにもらってるのかは興味あるみたい。
 秀はね」

「矢端さんはないんですか?」

「だって、それもらったら、命狙われたりするんでしょ?」
と言うが、いつも笑っている矢端がほんとうはなにを考えているのかよくわからない。

 いや、いつぞや、矢端が言っていたように、

「君たちの考えすぎ」
 なのかもしれないが――。

「そういえば、矢端さん、いります?」

「えっ?
 なにを?」
< 133 / 307 >

この作品をシェア

pagetop