通りすがりの俺様
「こいつ、ほんとうにスマホで打ったの、読み返さないし」

 それ、一緒に住まなくてもわかりますよね……。

「この間、『でも、あの警備のおじいさん、意外とリチャード一世だと思いますよ』って入ってきて」

 ちょうど取引先にいたんで、訊き返せなくて、小一時間悩んだ、と一鷹は言う。

「……いや、それ、リッチだと思いますよって打ったはずだったんですけど。
 スマホの変換がそうなってて」
と反論してみたが、

「お前はふだん、リチャード一世って打ってんのか。
 なんで、『リ』の予測変換がリチャード一世なんだ」
と言われる。

 ……そこは、スマホに訊いてみてください、
と思ったとき、
「やあやあ、今日は魚の煮付け?
 いい匂いだねえ」
と兄が帰ってきた。

「お兄さん、今日も遅かったですね」
と矢端が言う。

「実はこの間、仕事帰りに可愛い女性に話しかけられて。
 最初は時間を訊かれたんだけど」

 おっ、ついにほんとうに兄に春が訪れたのだろうか。

 兄の妄想の彼女ではなく――。

 妄想なのに、財産狙いの危険な女性だったからな……と思いながら、いずるは聞いていた。

「今日はすごく二人の仲が進展した気がする」
 ダイニングの椅子に座りながら、兄はご機嫌だった。

「へえ、よかったですね」
と矢端が微笑む。
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