通りすがりの俺様
「お前と出会ってから、俺は打算しかないっ。
 どうやって、お前の心を手に入れようかと思って、それだけ考えて生きてきたっ」

 一鷹はおもむろに、いずるを抱き上げた。

「俺と同じくらい俺が大好きか?
 俺と一生を共にする覚悟があるか?

 もちろんです、と思うなら、一回頷け。
 そうでもないけど、まあ、結婚してもいいです、と思うなら、二回頷け」

 結局、どっちでも頷いて結婚はするんじゃないですか、と笑いながら、いずるは、ちょっと迷って、こくりと一度頷いた。

 一鷹がそのまま止まっているので、どうしたのかと思ったら、いずるがもう一度頷くのではと思って見ていたようだ。

「『結婚してもいいです』を二度頷くにすればよかった。
 今度はそうしよう」

 いや、今度っていつっ?
と思ういずるを見つめ、一鷹は言ってくる。

「……初めてお前を意識した、あの渡り廊下でお前が大あくびしていた日から。
 俺にはずっとお前との未来が見えている。

 なんでだろうな」

 勇気を出して、お前の肩を叩いてよかった――。

 そう一鷹は言った。

 この人が私のために勇気を出してくれるとか不思議な感じだ。

 そう思いながら、いずるも思い出していた。

 あの日、渡り廊下で、大あくびをしていたところを一鷹に見られ、恥ずかしいと思って俯いたあと。

 顔を上げたら、一鷹が見たことないくらい微笑ましげな顔で自分を見ていたことを。

 この俺様、こんな笑い方もするんだと思ったことを――。
< 305 / 307 >

この作品をシェア

pagetop