スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 だが、その言葉に違和感を覚える。

「私が北斗さんに、敵うわけないじゃないですか」

 彼を振り向きそう言うと、今度こそ北斗さんがくすくす笑った。

「それは、俺だけが知っていればいいこと。琴子はそのままで、もっと俺に甘えていればいい」

 北斗さんはそう言うと、私の手からワイングラスを取り去った。指先が触れただけなのに、私は大きく反応してしまう。
 そんな私に、北斗さんは色香をまとった笑みでこちらに迫る。

「その反応は、ふたりきりだと意識してくれているということか?」

 テーブルを挟んで座っているのに、その笑みだけでもう襲われてしまいそうだ。

「あ、そうだ。先ほどの料理に関して、お礼のメッセージを送ってもいいですか? そのほうが、彼らのおもてなしにいっそう磨きが――」
「琴子はまた、仕事のことを考えているんだな」

 北斗さんはおかしそうに笑ったけれど、確かに、こんな反応は誠実じゃない。

「……すみません。でも、こういう空気に慣れていなくて」

 俯いたが、北斗さんは優しい声色で私に告げた。

「いや、俺のほうこそすまない。琴子はこういうことが苦手なのかもしれないとわかっているのに、どうしても自分を抑えきれなくなる」

 その言葉に、顔を上げた。

 苦手じゃない。なのに私の反応がいつもこんなだから、勘違いさせてしまうのだろう。それに、私だって触れてほしい気持ちがないわけじゃない。ただ気持ちがいっぱいいっぱいで、逃げようとしてしまうだけなのだ。

「北斗さん、あの……」

 まだ苦笑いを浮かべる北斗さんに、私は告げた。彼がきょとんと、こちらを見る。

「苦手じゃないんです。でも、どうしても仕事に逃げてしまうというか……だから」

 私はそこまで言うと、一度ごくりと唾をのむ。それから、逃げているだけではダメだと、心して声にする。

「北斗さんが、忘れさせてくれませんか? 私に、仕事のことを」
「え?」

 北斗さんが、目を見開いている。きっと今、私の顔は真っ赤だ。だけど、私は続けた。

「北斗さんに、もっと甘えていいんですよね?」

 言いながら、やっぱり恥ずかしい。だけど、彼があまりにもじっと私を見つめるから、私は視線を逸らせない。

「琴子……」

 北斗さんはそこまで言うと、再び優しいため息をこぼし、私に言う。

「一本取られた。それなら――」

 北斗さんは急に立ち上がり、私の隣にやってきた。そのまま私の右手を自身の左手で持ち上げ、そこにちゅっと王子様のように口づける。

「今夜はとことん、甘やかしてあげる」

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