スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
「琴子ちゃん。前に話した、君と同じような悩みを持っている人。彼のことだよ」
不意にマスターに言われ、きょとんとした。
『本当の私は、スパダリなんかじゃないのになあ』
私がそう彼に言った時、同じような悩みを持っている人がいるとマスターに言われたことがある。そして、北斗さんからもカリスマ性がなくて悩んでいたという話を聞いたことがある。
つまり、私たちは――。
そこまで思ったら、くすりと笑みがこぼれた。
「私たち、似た者同士だったのかもしれないですね」
すると、北斗さんも同じくくすりと笑う。そんな私たちを見て、マスターが言った。
「琴子ちゃん。君はヒマラヤ登山の準備が、もう整ったみたいだね」
「え?」
ついそうこぼしてしまったが、すぐにマスターの言いたかったことに合点がゆき、私はマスターに笑みを向けた。
マスターは私に、ヒマラヤを登ってほしいわけじゃない。私がひとりで何事にも突っ込んでいくことを、心配してくれていたのだろう。
だけど今、私の隣には信頼できる、愛おしいパートナーがいる。
「今なら、幸せな気持ちで登頂できそうです」
言いながら、ふと思った。きっと先ほど唐突にマスターに惚気た北斗さんも、同じような気持ちだったのだろう、と。
ちらりと北斗さんを見ると、彼は不思議そうな顔で首をかしげていた。
バー88からの帰り道。すっかり日の沈んだ都心の通りを、彼と手を繋いで歩く。
まだ夜風が冷たく感じる季節だが、先ほど飲んだ温かいお酒のおかげか、今日はあまり寒くない。
「さっきのヒマラヤの話、なんだったんだ?」
北斗さんに尋ねられたけれど、説明するのも恥ずかしい。
それに、私にとって北斗さんは、雪山に登る装備以上になくてはならない大切な人だ。
「私には、北斗さんが必要だってことです」
なんとか濁して伝えると、繋いでいた手をきゅっと強く握られた。
はっと顔を上げると、北斗さんが優しく微笑んでいる。
「俺にも、琴子が必要だよ。もう絶対に、手放さない」
その言葉にやっぱり照れくさくなって、私は空を見上げた。
明るい東京の街。今の季節はオリオン座は見えないけれど、北斗さんはどこにいても私を照らしてくれるだろう。
それがなんとなく嬉しくて、つい頬がにんまりと緩んでしまう。
「好きです、北斗さん」
あふれだした想いが、素直に口からこぼれ落ちる。
「俺もだよ」
そんな私たちを優しく見守るように、東京の夜の街路樹が、さわさわとさざめいていた。
【終】
不意にマスターに言われ、きょとんとした。
『本当の私は、スパダリなんかじゃないのになあ』
私がそう彼に言った時、同じような悩みを持っている人がいるとマスターに言われたことがある。そして、北斗さんからもカリスマ性がなくて悩んでいたという話を聞いたことがある。
つまり、私たちは――。
そこまで思ったら、くすりと笑みがこぼれた。
「私たち、似た者同士だったのかもしれないですね」
すると、北斗さんも同じくくすりと笑う。そんな私たちを見て、マスターが言った。
「琴子ちゃん。君はヒマラヤ登山の準備が、もう整ったみたいだね」
「え?」
ついそうこぼしてしまったが、すぐにマスターの言いたかったことに合点がゆき、私はマスターに笑みを向けた。
マスターは私に、ヒマラヤを登ってほしいわけじゃない。私がひとりで何事にも突っ込んでいくことを、心配してくれていたのだろう。
だけど今、私の隣には信頼できる、愛おしいパートナーがいる。
「今なら、幸せな気持ちで登頂できそうです」
言いながら、ふと思った。きっと先ほど唐突にマスターに惚気た北斗さんも、同じような気持ちだったのだろう、と。
ちらりと北斗さんを見ると、彼は不思議そうな顔で首をかしげていた。
バー88からの帰り道。すっかり日の沈んだ都心の通りを、彼と手を繋いで歩く。
まだ夜風が冷たく感じる季節だが、先ほど飲んだ温かいお酒のおかげか、今日はあまり寒くない。
「さっきのヒマラヤの話、なんだったんだ?」
北斗さんに尋ねられたけれど、説明するのも恥ずかしい。
それに、私にとって北斗さんは、雪山に登る装備以上になくてはならない大切な人だ。
「私には、北斗さんが必要だってことです」
なんとか濁して伝えると、繋いでいた手をきゅっと強く握られた。
はっと顔を上げると、北斗さんが優しく微笑んでいる。
「俺にも、琴子が必要だよ。もう絶対に、手放さない」
その言葉にやっぱり照れくさくなって、私は空を見上げた。
明るい東京の街。今の季節はオリオン座は見えないけれど、北斗さんはどこにいても私を照らしてくれるだろう。
それがなんとなく嬉しくて、つい頬がにんまりと緩んでしまう。
「好きです、北斗さん」
あふれだした想いが、素直に口からこぼれ落ちる。
「俺もだよ」
そんな私たちを優しく見守るように、東京の夜の街路樹が、さわさわとさざめいていた。
【終】


