スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
「スパダリ、ねえ」

 呟きながら、目の前のパソコンに視線を向ける。

 レジデンシャルスイートに宿泊されるお客様のお名前は、【鷲見(わしみ)北斗】様。今日から一か月間、連泊される予定だ。アメリカからいらっしゃると名簿にあるから、日本名だが英語のできるスタッフに案内を促したい。

 そう思っていると、不意にインカムで名前を呼ばれた。

『樫江さんに対応いただきたいというお客様が、フロントに見えています』

 早乙女くんだ。

「至急向かいます。お客様のお名前は?」

 インカムに応えつつ、フロントへ向かう。すると、早乙女くんから応答があった。

『本日よりご宿泊の、鷲見様です』

 体がぴくんと跳ねた。会ったこともないのに、まさか私を指名するなんて。
 ともかく、お客様をお待たせするわけにはいかない。私は急いで服の裾を引っ張りピシッと直すと、フロントへ向かった。

 仕事用の笑みを浮かべ、フロント後方の扉からフロントへ。早乙女くんの広い背中が見えて、私はさっそく声をかけた。

「お待たせいたしました」

 だがカウンターの向こうにいた人物を見て、私は内心動揺する。彼は、先ほどぬいぐるみを拾ってくれた男性だ。

 やたらと顔の整っている彼は、先ほどと変わらぬ隙のないスーツ姿。だが、彼がこちらに向ける爽やかな笑顔は威圧的な雰囲気などまったく感じさせず、むしろ安心感さえ覚える。

 早乙女くんが私に気づき、「失礼します」と彼の前から去っていく。私は動揺を隠していつもの笑みを浮かべ、彼の前へと歩み出た。

「先ほどはぬいぐるみを届けてくださり、ありがとうございました。持ち主へ届けることができたのは、鷲見様のおかげでございます」

 頭を下げると、彼はふっと優しい吐息をこぼした。

「それなら、よかった」

 彼はそう小さく言うと、より嬉しそうな笑顔で私に告げる。

「今日からここに一か月宿泊予定の、鷲見北斗です。部屋までの案内を、ぜひ君に頼みたくて」

 彼がそう言った時、インカムから声が飛んできた。

『すでにチェックイン済み、お部屋は803号室』

 ちらりと横を見ると、早乙女くんがこちらを向いている。私はありがとうの意を込め彼に軽く頷いて、鷲見様に向き直った。

「かしこまりました。私がご案内いたします」

 頭を下げると、彼は「よろしく」とにこやかに答えた。

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