スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
バックオフィスへ戻り、パソコンを確認する。と、休憩に入ったはずの川西さんに背後から声をかけられた。
「樫江さん、先ほどはすみませんでした」
振り返ると、彼女は頭を下げている。
「お客様の大切なぬいぐるみを、踏んでしまうところでした。私はまだまだ、周りが見えてないんだって思い知りました」
そんな彼女に、私は小さく首を横に振った。
「川西さん、当時の状況をしっかり思い出して、反省できるのはすごいこと。あなたは絶対に、今以上に周りが見えるようになるはずよ」
すると、彼女は顔を上げる。潤んだ目元が見え、私は彼女に笑顔を向けた。
「あなたに怪我がなくてよかった。それに、すぐに衝立をと動いてくれたおかげで、お客様のプライバシーが守れたのは紛れもない事実。ありがとう、川西さん」
すると今度は、川西さんの頬がほんのり赤くなる。
「樫江さん、やっぱりスパダリ……」
彼女がそうぽつりとこぼすから、私の笑みは苦笑に変わった。私はなぜか、職場で『スパダリ』と呼ばれているのだ。
「そんなことないよ。スパダリって、スーパーダーリンっていう意味でしょう?」
私は昔に読んだ、少女漫画のスパダリヒーローを思い浮かべてそう言った。
頭脳明晰、成績優秀。スポーツ万能で、なんでも卒なくこなしてしまう。圧倒的な財力を持っているのに鼻につかない優雅なふるまいで周囲を魅了し、包容力だけでなく強い精神力も兼ね備えている。恋愛面では、ヒロインを一途に愛し貫く。それが、スパダリだ。
私はそこまで頭もよくないし、スポーツはまるでできない。顔立ちも特段綺麗なわけではなく、仕事上小綺麗なメイクと清潔感のあるミディアムボブでまとめているだけだ。財力があるわけでもないし、持っているものといえば仕事に対する矜持と日常会話程度の英会話力くらい。おまけに、恋も御無沙汰だ。
だが、川西さんは「とんでもない!」とぶんぶん首を横に振る。
「的確な指示はホテルマンらしくかっこよかったですし、その後のフォローとその笑顔。樫江さんの圧倒的な包容力は、スパダリ以外の何物でもありません」
私にそう力説した川西さんはなぜかそのまま、休憩から戻ってきた後輩に「ね?」と同意を求める。
「樫江さんはスパダリです!」
川西さんに当てられたのか、彼女もこちらに向かって堂々とそう言い切った。
「この間のお客様のトラブルだって、華麗に片づけてくださったじゃないですか。私、びくびくして見ていることしかできませんでした」
確かに、あの時私はお怒りのお客様と縮こまる彼女の間に入った。だがそれは、ホテル内での困り事はホテル内で解決すべきだと思ったからそうしただけだ。特段、持ち上げられることでもないだろう。
そう思ったのに、彼女は続ける。
「私、もし結婚するなら、その辺にいる男性よりも樫江さんがいいって思うくらいです。そばにいて、甘やかされてみたいですう~」
なぜかほわんとした顔をする彼女に、私はうん?と首をかしげた。なぜ、私が彼女を甘やかすという話になるのだろう。
だが続けて、川西さんが強く同意した。
「まさにそれ! 樫江さんが男性だったら、私、絶対にお付き合い申し込んでますもん!」
「そう? ありがとう」
なんだかよくわからないけれど、きっと褒めてくれているのだろう。ふたりに笑顔でそう返すと、後輩は仕事に戻り、川西さんは満足そうに「休憩いただきます」と奥へ消えていった。
「樫江さん、先ほどはすみませんでした」
振り返ると、彼女は頭を下げている。
「お客様の大切なぬいぐるみを、踏んでしまうところでした。私はまだまだ、周りが見えてないんだって思い知りました」
そんな彼女に、私は小さく首を横に振った。
「川西さん、当時の状況をしっかり思い出して、反省できるのはすごいこと。あなたは絶対に、今以上に周りが見えるようになるはずよ」
すると、彼女は顔を上げる。潤んだ目元が見え、私は彼女に笑顔を向けた。
「あなたに怪我がなくてよかった。それに、すぐに衝立をと動いてくれたおかげで、お客様のプライバシーが守れたのは紛れもない事実。ありがとう、川西さん」
すると今度は、川西さんの頬がほんのり赤くなる。
「樫江さん、やっぱりスパダリ……」
彼女がそうぽつりとこぼすから、私の笑みは苦笑に変わった。私はなぜか、職場で『スパダリ』と呼ばれているのだ。
「そんなことないよ。スパダリって、スーパーダーリンっていう意味でしょう?」
私は昔に読んだ、少女漫画のスパダリヒーローを思い浮かべてそう言った。
頭脳明晰、成績優秀。スポーツ万能で、なんでも卒なくこなしてしまう。圧倒的な財力を持っているのに鼻につかない優雅なふるまいで周囲を魅了し、包容力だけでなく強い精神力も兼ね備えている。恋愛面では、ヒロインを一途に愛し貫く。それが、スパダリだ。
私はそこまで頭もよくないし、スポーツはまるでできない。顔立ちも特段綺麗なわけではなく、仕事上小綺麗なメイクと清潔感のあるミディアムボブでまとめているだけだ。財力があるわけでもないし、持っているものといえば仕事に対する矜持と日常会話程度の英会話力くらい。おまけに、恋も御無沙汰だ。
だが、川西さんは「とんでもない!」とぶんぶん首を横に振る。
「的確な指示はホテルマンらしくかっこよかったですし、その後のフォローとその笑顔。樫江さんの圧倒的な包容力は、スパダリ以外の何物でもありません」
私にそう力説した川西さんはなぜかそのまま、休憩から戻ってきた後輩に「ね?」と同意を求める。
「樫江さんはスパダリです!」
川西さんに当てられたのか、彼女もこちらに向かって堂々とそう言い切った。
「この間のお客様のトラブルだって、華麗に片づけてくださったじゃないですか。私、びくびくして見ていることしかできませんでした」
確かに、あの時私はお怒りのお客様と縮こまる彼女の間に入った。だがそれは、ホテル内での困り事はホテル内で解決すべきだと思ったからそうしただけだ。特段、持ち上げられることでもないだろう。
そう思ったのに、彼女は続ける。
「私、もし結婚するなら、その辺にいる男性よりも樫江さんがいいって思うくらいです。そばにいて、甘やかされてみたいですう~」
なぜかほわんとした顔をする彼女に、私はうん?と首をかしげた。なぜ、私が彼女を甘やかすという話になるのだろう。
だが続けて、川西さんが強く同意した。
「まさにそれ! 樫江さんが男性だったら、私、絶対にお付き合い申し込んでますもん!」
「そう? ありがとう」
なんだかよくわからないけれど、きっと褒めてくれているのだろう。ふたりに笑顔でそう返すと、後輩は仕事に戻り、川西さんは満足そうに「休憩いただきます」と奥へ消えていった。