スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 視察という名の休暇を終え、日常に戻ってきた。

 休暇前に提出していた顧客対応マニュアルの修正案は無事に承認され、クオリティ・マネージャーとしての仕事は年明けからのヴィラのスタッフ教育へと移る。
 年末年始はその資料の確認をしつつ、私はホテルでの勤務に励む。オリオンレジデンスホテル東京は例年、年末年始の客室はフル稼働だ。

 今日は遅番で、当直勤務だ。ヴィラのクオリティ・マネージャーとの二足わらじになった時に課長が気を利かせて日勤ばかりにしてくれていたから、当直は久しぶりだ。
 気合を入れてロッカールームへ。そこでは、今日私と同じく当直の川西さんがメイクをしていた。

「川西さん、今日よろしくね」

 バニティスペースの鏡越しに声をかけると、彼女はにこっとかわいらしく微笑む。

「こちらこそ、よろしくお願いします。樫江さんと一緒なら、怖いものなしです!」
「そんな。夜勤は久しぶりだから、逆に迷惑かけちゃうかも」

 すると川西さんはと、「樫江さんに頼られるなんて……」と、なぜか頬を赤らめる。
 そんな彼女に苦笑いを浮かべながら着替えをしていると、「そうだ」と川西さんがこちらを振り向いた。

「この間の三連休は、どこかへお出かけされたんですか?」

 彼女の言葉に、肩が跳ねそうになった。
 極上の宿泊体験はもちろん勉強になった。だがそれを思い出すと、北斗さんにキスされたことも想起してしまうのだ。

 結局、あのキスの真相はわからない。北斗さんにそれとなく聞こうと何度も思ったが、ずっと聞けないでいる。
 もし私への好意はなかったなどと言われたら恥ずかしいし、それで私が逆に彼を意識していると思われて気を遣わせてしまうのも違う。それに、雰囲気に流された私も悪いのだ。

「ちょっと、本社のほうで仕事があって。休んだわけじゃないの」

 取り繕った笑みでそう言うと、川西さんが「そうだったんですね」となぜか肩を落とす。

 だがそんな彼女を見ていたら、ふと思った。ころころと表情を変えるほど感情豊かな川西さんなら、男女のことに聡いかもしれない、と。
 だから私は思い切って、彼女に聞いてみる。

「ねえ、川西さん。これは友人の話なんだけど――」

 そう前置きをして、こちらを振り向いたままの彼女に続けて言った。

「付き合ってもない異性にキスをされるのって、どういう意味があると思う?」

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