あなたは悪魔で運命の人

会社に到着し、私はいつもの通り知っている顔に挨拶する。


「おはようございます。」

「えっ…お…おはようございます。」


何故か私に驚き丁寧に頭を下げて挨拶をされた。

(…これって…私を皆は知らないんだ。本当に記憶から消えてしまったの…)

その時、感じたことに無い淋しさと恐怖を感じた。
私は思わず、前を歩く圭吾のスーツの袖を掴んだ。

圭吾はうつむく私の顔を覗き込み、片手を私の頬にあてた。


「大丈夫だ、心配するな。」

「…はい。」


営業部のフロアーに到着するとマネージャーが気づいて近づいて来た。

「おはようございます。龍崎部長、そして鈴木さんですよね。お待ちしておりました。これから朝のミーティングがあるので皆にご紹介しますね。」

マネージャーは微笑んで私に会釈した。
昨日まで、一緒に仕事していた人たちが、私を知らない。

複雑な気持ちであり、そして一番恐れていたことにが私にはある。
営業部には健斗がいるのだ。

朝のミーティングが始まり、営業部の人たちが並んだ。

そこには当然ではあるが健斗は居た。
いつもと変わらない爽やかな顔で横の人と話している。
健斗は私の知っている笑顔で何も変わらないように見えている。

私はマネージャーから紹介され挨拶のため前に出た。

「今日から転勤でうちの営業部に来た鈴木恵美さんです。」

皆が私に注目している。
私は少し緊張しながら挨拶を始めた。

「今日からこちらでお世話になります。鈴木恵美です。よろしくお願いします。」


私が頭を下げると、みんなが拍手で応える。
健斗も拍手で応えている。
そしてその近くには、京子もいた。


(…京子、本当に忘れられちゃったんだ…わかっていたけどこんなに悲しいことなんだ…)


朝のミーティングが終わると、さっそく京子が近づいて来た。

「はじめまして。私は西条京子です。鈴木さんと私、同じ年みたいですね。仲良くしてください。それと…噂なんですけど、鈴木さん龍崎部長の婚約者なんですよね?それでこちらに転勤になったと聞いています。」


(…さすが京子だ、情報が早い。でも、本当に覚えてないんだ…)

「西条さん、よろしくお願いします。噂は本当ですが、もうご存じなんですね。」

京子はクスッと笑った。

「やっぱり本当なんですね。きっと会社中の女性が、がっかりしていると思いますよ。でも鈴木さんなら納得です。とてもお似合いです。」


「ありがとう…ございます。」

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