窓ガラスの向こうにいた恋
青葉祭前日の夕方。

温室は、明日の販売に向けて最後の準備に追われていた。並べられた苗を一つひとつ確認し、葉の傷みがないかを見る。

「この子たち、春は本当に小さかったのにね。」

澪先輩が苗を優しく撫でながら言った。

「はい。毎日見ていると気づかなかったですけど…本当に大きくなりました。」
「植物も人も同じなんだよ。毎日は少しずつでも、ちゃんと育ってる。」

夕陽に照らされた横顔が、とても穏やかだった。私はその言葉よりも、その表情のほうが心に残ってしまった。


迎えた青葉祭当日。朝からブースにはたくさんのお客さんが訪れた。

「このハーブならお料理にも使えますよ。」
「この苗は日当たりのいい場所が好きなんです。」

緊張しながらも、凪と二人で夢中になって接客を続けた。小さな子どもが寄せ植えを抱えて嬉しそうに笑う。年配の女性が「来年も買いに来るね」と声をかけてくださる。その一つひとつが嬉しかった。
ふと顔を上げると、少し離れた場所で澪先輩がお客さんと話していた。相手の目線までしゃがみ込み、苗の育て方を丁寧に説明している。その笑顔を見ているだけで、こちらまで安心するような空気があった。

「翡翠。」

隣で凪が小さく笑う。

「また澪先輩見てたでしょ。」
「え?」
「最近よく目で追っているよね。」
「そんなこと…。」

慌てて否定すると、凪は「ふふっ」と笑うだけだった。

「でも分かるよ。澪先輩って素敵だもんね。」

私は曖昧に笑ってごまかした。その時は、ただ憧れているだけだと思っていた。
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