窓ガラスの向こうにいた恋
「そろそろ帰ろうか。」
二人で帰り支度をしながら、何気なく外を見る。とてもきれいな夕焼けだった。
窓ガラスには、夕焼けに染まった温室と、私の後ろで帰り支度をする澪先輩の姿が映っていた。
私は息をすることも忘れて、その横顔を見つめる。笑っているわけでもない。こちらを見ているわけでもない。ただ、そこにいるだけなのに、どうしてこんなにも目が離せないんだろう。
気づけば私は、窓ガラスに映るその頬へ、そっと指先を伸ばしていた。
指先が触れたのは、冷たいガラスだけだった。
届きそうなのに、届かない。
すぐ近くにいるはずなのに、どうしてこんなにも遠く感じるのだろう。
「翡翠ちゃん帰ろ?」
突然、澪先輩に声をかけられて我に返った。
(私、何してるんだろう)
慌てて、荷物を持った。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
その理由だけは、まだ分からなかった。
夕焼けに染まる窓ガラスには、澪先輩ではなく、まだ名前を知らない恋に戸惑う私が、静かに映っていた。