窓ガラスの向こうにいた恋
入学式を終えたキャンパスは、新入生歓迎の熱気で包まれていた。
運動部の威勢のいい声。
軽音サークルの演奏。
色鮮やかな看板。
初めて見る大学という世界は、どこを向いても新しい出会いに満ちていた。
そんな中、一つのブースの前で自然と足が止まった。色とりどりの花。小さな寄せ植え。花束。
手書きの看板には、『園芸研究会』と書かれていた。
思わず近づくと、一人の女性がこちらへ振り向いた。
「こんにちは。新入生?」
柔らかな声だった。緩く巻かれた長い髪が春風に揺れる。優しく微笑むその人を見た瞬間、不思議と肩の力が抜けた。
「はい。」
そう答えるのが精一杯だった。
「私は二年の雨宮澪《あまみやみお》。よかったら見ていかない?」
無理に勧誘するわけでもなく、本当に花が好きだから紹介したい。そんな温かさが伝わってくる。
「この花束も、アレンジメントも、サークルのみんなで作ったんだよ。」
花の説明をする澪先輩は、本当に楽しそうだった。
(こんな先輩になれたら素敵だな)
その時の私は、ただ純粋にそう思っただけだった。
「わぁ、きれい!」
隣から明るい声が聞こえた。同じようにブースを見つめていた女の子だった。
「新入生?」
澪先輩が尋ねる。
「はい!」
その子は元気よく返事をすると、私へ振り向いて笑った。
「私は、朝倉凪《あさくらなぎ》!名前は?」
「あ…一ノ瀬翡翠《いちのせひすい》です。」
少し緊張しながら答えると、
「よろしくね、翡翠ちゃん!」
まるで春の日差しみたいな笑顔だった。
初対面なのに、不思議なくらい話しやすい。
その一言だけで、大学生活への不安が少しだけ小さくなった気がした。