弾け跳ぶアセロラ
11. 波乱の幕開け?
「ごちそうさまでしたー」
初めて食べるカオマンガイがホントに美味しかった。早苗ちゃんの料理の腕にはいつも感動する。
「俺カオマンガイ初めて食べたー!姉ちゃんも家で作ってよ」
「由加梨には無理だろうな。生煮えか、丸焦げのどっちか」
「だよねー。樹兄ちゃんの言うとおりだよ」
「はいはい黙れ」
ただでさえ、明日の校外学習で頭がいっぱいなのに、コイツら黙ってくんねぇかな。
食器を重ねて、みんなで片付けながら台所へ運ぶ。いつもならこのあと、みんなでテレビを見る。
なのに、台所にいるアタシの横でヒロが止まった。
「お前、昼休みに珍しく男と2人で自販機のとこいたじゃん」
「やっぱ見てたの?校外学習で一緒の班の奴」
「え?姉ちゃん彼氏!?」
「冬真!アンタはうっさいから先にテレビ見てろ」
スネた冬真は、テレビをつけて奥のソファに座った。けど、ヒロはまだアタシの隣にいる。
「へー。仲良さげにしてたから顔を拝むついでに『コイツ料理下手ですよ』って忠告してやろうかと思ってさ」
アタシを覗き込みながらニヤリと笑う。
「へー。じゃあアタシもヒロ囲ってる女子に言ってやろう『コイツ猫かぶってますよ』って。家でも好青年してりゃあいいのに」
反撃してアタシもニヤリと笑い返す。
洗い物をしようとスポンジに手を伸ばすと、着替えた早苗ちゃんが、階段から降りてきた。
「由加梨ちゃん!洗い物そのまんまでいいから、ソファでゆっくりしててちょうだい」
「え、いやいや洗うよ!早苗ちゃん出かけるの?」
「トイレットペーパー切れたから買いにいってくるの。ほら、樹がそこにいたら邪魔でしょ?由加梨ちゃんソファに連れてって」
「ほら、母さんもああやって言ってるし、洗い物は俺が後でするから。行くぞ」
「ちょっと、痛いんだけど」
アタシは無理やりヒロに引っ張られ、ソファに向かう。アタシの定位置には、すでに冬真が座っていた。
「冬真、このでっぱってるとこ座んないでよ。あとスポーツ番組じゃなくてお笑い番組にして」
ヒロがソファの左に座ったので、アタシは仕方なく真ん中に座る。
食い入るようにテレビを見ている冬真に、アタシの声は届いていない。
「あ、見て!この高校って樹兄ちゃんに特待生で⋯⋯」
「ちょっと冬真!」
すかさずバカ冬真の口を塞いだ。早苗ちゃんはすでに、家を出てたみたいでホッとしたけどヒロはぼーっとしてる。
「由加梨、別にいいよ」
アタシを見て、ヒロは冬真の後ろから頭をわしゃわしゃと撫でた。
「樹兄ちゃんゴメンなさい」
「俺の前だけだったらその話してもいいけど、母さんと父さんの前ではナシ。約束な?」
「⋯⋯うん」
お笑い番組見とけばよかったのに。
このあとは、いつもみたいにアイスを食べながら3人でお笑い番組を見た。ヒロは普通に笑ってたけど、何度か組んだ手にギュッと力を入れてた。
「おやすみなさーい」
冬真が先に玄関から出ていく。アタシも出ようとサンダルを履くと、リビングからドスドスッと足音が近づいてきて、止まった。
「由加梨、俺は今の高校生活楽しいから」
うつむいたままのヒロの声が、かすれているのに、くっきりと耳に入ってくる。
あのときのヒロと重なって、顔を見れない。
「え?聞こえないなーもう1回大きな声で言って欲しいなぁー?なになに?」
「なんでもねぇよ!明日の校外学習、お前とクラスが別で本当に良かったよ。ドジしそうだもんな」
「別にクラス一緒でも、いつも通り学校ではヒロと関わんないから」
「はいはいまたそれ。学校で何かあっても、助けてやんねぇからな」
なんだか調子が戻ってきたみたいで、これなら家に帰れる。
「じゃあもう行くから、おやすみー」
「⋯⋯おやすみ」
自分の家までの3メートルだけ、あのときのことを振り返った。家に帰ってからは、校外学習のことだけを考えよう。
机の上に置きっぱにしてたアタシのスマホ。学校から帰ってきたときから置いてた。
けど、シャワーを浴びて部屋に戻ると、机の上にはない。確実にヒロの家には持ってってないのに。
もしかして、バッグに入れたまま?
バッグを取ろうとしゃがみこむ。そのとき奥に見えた四角の黒い影。
「え⋯⋯怖。なんで机の下に落ちてんの」
手に取って、画面をつける。
「ぎゃぁあああああああ」
アタシは思わず、スマホを投げてしまった。
初めて見る、大量の不在着信の通知。
そこには全部『瑞嶋』の文字が並んでいた。