弾け跳ぶアセロラ
2.いつも通り⋯⋯じゃない!?
突き刺さる視線は瑞嶋とアタシを交互に行き来する。教室はまだまだ大騒ぎ中だ。
「瑞嶋君さっき由加梨って呼んでた?」
「え、世良さんと瑞嶋ってそういう関係!?」
盛り上がった空気がアタシにはずっしりと重くのしかかる⋯⋯。
「瑞嶋チャンと何かあったワケ?」
「え?」
「ま、今は慣れてない視線の多さに意気消沈してるみたいだケド」
そう言われ瑞嶋の席を見ると、机に顔をうずめていた。
「⋯⋯誰のせいよっ!アタシのほうが隠れたいっての⋯⋯」
「ん?由加梨、今なんか言った?」
「言ってない!もうほんとに⋯⋯あっ!先生きた」
「はいはーい静かにしてくださーい!ほら、号令は?」
⋯⋯。
「号令!日直は誰?日直は⋯⋯瑞嶋君じゃない!瑞嶋君、号令!」
「あっ⋯⋯はい」
瑞嶋はハッとして顔を上げた。すぐにアタシを見て前を向いた。
「世良さんのことで頭いっぱいなんじゃねえの!」
「あ、真っ赤じゃん瑞嶋」
はぁ⋯⋯もういい加減にしてくれ⋯⋯。
こうして最悪な一日は始まる。
瑞嶋が号令する度にアタシもみんなから注目され、イジリは続く。
「茉菜もうアタシ帰りたい!」
「いいじゃない!クラスのみんなにイジられる由加梨、新鮮で面白いしね〜」
ニタニタした茉菜は前の席からアタシのふくらんだ頬を指でつついた。
「ゴールデンウィークは?やっぱり幼馴染の広田チャンとも過ごしたの?」
「声大きいっての!皆に聞かれたらどうすんの!ヒロとはいつも通り!」
3日前――ゴールデンウィーク真ん中。
ピンポーン。
「あら!由加梨ちゃん冬真くん遅かったわね〜樹も待ってるわ!手洗ったらいらっしゃい!」
「はーい!姉ちゃんが家で不機嫌すぎて遅くなったー!」
「うっさい!それはアンタのせいでしょ!」
しょうもない兄弟喧嘩をしながら席につくと、テーブルにはいつもの美味しそうなご飯がズラリ。
「ほら!食べて食べて!あら由加梨ちゃん⋯⋯もしかして具合が悪いのかしら?」
「え、アタシ顔色悪い?って、ヒロなに?」
さっきから見てくるヒロは、ついに横からアタシの顔を覗き込んだ。
「寝不足か?いつもの勢いどこいった。そんな顔してるとブサイクになっちまうぞ。」
そう言ってヒロはご飯を食べ始めた。相変わらずアタシへの扱いは雑。
「こら樹!女の子に向かって!昔はあんなに可愛い、可愛いって言ってたじゃない」
「⋯⋯おい!昔の話持ち込んでくんなよ」
箸が止まってアタシを睨んで、また食べ始める。
「違うよ!姉ちゃんが集めてたアセロラジュースのキャップをボランティア委員に持ってたんだー!そしたらこの有り様」
アタシはこの生意気な弟を睨む。
「この有り様ってアンタが勝手に持ってったからでしょ!アタシの勲章が⋯」
「いいじゃん!ボランティアだよ!?俺めっちゃ褒められたんだー!」
「この泥棒!いい気になるな!」
「まぁよかったじゃん由加梨。冬真はたくさん褒められたって喜んでるし。アセロラジュース好きなのは、初耳だけどな」
「違うよ!姉ちゃんこの間テレビでアセロラ農家のドキュメンタリー見て、それでね⋯⋯」
ホンッとにコイツの口を縫いたい。中学生でこの落ち着きのなさはどうかしている。
「あぁあああ!うるさい冬真!静かにして」
「しかも、それ見て泣いてた!」
「冬真!アンタ本当に静かにして」
「アッハッハッハ⋯⋯テレビで見たからって、やっぱ由加梨はおせっかいだなー」
「う、うるさい⋯」
結局広田家で、喋って、ケンカして、笑って、ご飯を食べて、いつも通りの休日だった。
「おーい!世良、それと真中は職員室まで来るように」
「えっ、ダルー。ほら茉菜もでしょ。行こ」
「なんでワタシもなのよ。もう遠いから嫌なのよね」
アタシと茉菜はブツブツと文句を言いながら手すりに体重をかけて、ゆっくりと階段を降りていた。
降りた先で女子がワチャワチャしている。
「広田君ゴールデンウィークはどこか出かけたの?」
「えーやっぱり広田君なら、サッカーの試合か練習?」
「まぁそんな感じかな」
ワチャワチャの中心にはニッコリと微笑むヒロがいた。
「うわぁー広田チャンがモテモテなのは通常運転ねー」
「⋯⋯関係ないよ行こ」
ヒロと目が合わないように窓の外を見ながら歩く。
家じゃあんな爽やかじゃないですけどね!
「由加梨アンタのこと待ってるみたいだけど?」
「だから!関係ないってば!」
「そうじゃなくて瑞嶋チャンが!」
「⋯⋯え?」
片手を後ろにした瑞嶋が廊下の先に立っていた。