弾け跳ぶアセロラ
8. おせっかい返し
ペンを拾おうと立ち上がるアタシを止めて、瑞嶋が代わりに拾う。ホコリを払って、持ち手を向けて渡してくれた。
「ありがとう」
「はい。じゃあ今日はもう終わりでいいかな?由加梨」
「あ、うん。みんな今日はお疲れ様でしたー!アタシ、グループチャットには入ったんだけどさ、決まったこととかあったら電話してほしいかな?」
「由加梨ちゃん、やっぱりチャットの使い方分かってない?」
ほっちと呼べるくらいに、仲良くなったはずなのにグサッと刺さる。
「あ、えっと通知オフにしてるというか、スマホ家で見ないんだよね。ほっち電話してくれる?」
「私じゃなくて、みつるんがいいんじゃない?ここまでチャットのことやってくれたし、電話面倒くさいし」
またサラッと刺された。
「お!みつるんだって嬉しいなー。でも世良さんに電話すんの嫌」
中園はムスッとほっぺたを膨らませながら、ペンケースをカバンにしまって席を離れる。
「はー?なんでよ、なら岡田!じゃなくて勇者様よろしく!」
スネた中園より、プリントの文字を指でなぞる岡田の方がやる気を感じる。
「あ、はい、オレ電話かけま」
バンッ。
話を遮って立ち上がったのはデカいエノキ。見上げた時、思ったよりもデカかった。
「副リーダーだから俺かける」
「お、おお、じゃあ副リーダーよろしく!」
電話の件を瑞嶋に託して、アタシはレジに向かう中園を追いかけた。
「ちょっと中園!黙って伝票持ってくなんて」
持っていた伝票を奪おうとしたが、思ったよりも強く握られてて、奪えない。
「だってもう会議終わりでしょ?世良さんは僕のことみつるんって呼んでくれないしー」
レジの前でもほっぺたをプクプクさせて、財布からカードをサッと取り出す。
「いつか呼ぶからソレ、しまって」
「はいはい、いつかっていつ?いいよ今日は。散々迷惑かけたし、僕が払います」
払おうとする手を止めて、アタシは会計を済ませた。
「あっ」
「中園、そういうことは自分で稼いでから言いなよ」
中園は何も言わずに、目を丸くしたままカードを財布にしまう。
そのあとすぐに班のみんなとレジで合流した。
「給料入ったばっかだし、今日はリーダーが奢らせていただきましたー!」
「ごちそうさまでした」
「ありがとう」
みんなから、感謝の言葉、多分尊敬してる眼差し、温かい拍手で見送られてから家に帰った。
「ただいまー」
返事はないが、浴室からシャワーの音が聞こえる。冬真が隣のヒロの家から帰ってきていた。
クタクタでリビングに向かうと、テーブルの上には見慣れた大好きな物が。
「残してくれてんじゃん」
大好きな唐揚げの横に『姉ちゃんへ ちゃんとお母さんの分もとっといてね。樹兄ちゃんに感謝しろ』と雑な字で書かれたメモ。
アタシは唐揚げを一つ、つまんで自分の部屋へ階段を上る。ひと息つこうと、ベッドに腰かけた。
冬真のシャワーが終わるまで、窓を開けて曲を聴く。夜空を見上げながら。
今日の選曲はアタシのお気に入り、ではなくて岡田オススメのアニソン。思ったよりも湿っぽい。
コンコンッ。
久しぶりに聞くガラスを叩く音。見下ろすと、窓越しにヒロがこっちを見ていた。
いつも素通りのくせに、何か口を動かしている。目を凝らすと ブ サ イ ク。ブサイク!?
ヒロはアタシを指差しながら、腹を抱えて笑っている。そんなヒロを睨みながら、シッシッと手で払うと、次は オ ヤ ス ミ と言って奥へ戻っていった。
突然、机に置いたスマホから着信音が鳴る。
「ヒロ!ブサイクって言ってんのバレてるから」
「⋯⋯み、瑞嶋です」
勢いで電話に出てしまったことが恥ずかしくて、片手で髪をボサボサになるくらい触った。
「あーゴメン!ちょっと勘違いしちゃった。進捗どうぞ副リーダー」
「⋯⋯」
ヤケに静かになって、瑞嶋の方から微かに聞こえる車が走る音。
「副リーダー?瑞嶋ー?」
まだ黙ったままだったので、確認のためスマホの画面を見る。30秒経過して、40秒、45秒、46秒。どんどん遅く感じて、1分が経過。
もう一度スマホを耳元に近づけたとき、やっと瑞嶋が喋り始めた。
「あ、あの校外学習のことも、なんだけどさ」
「うん?」
「⋯⋯」
「おーい」
「おせっかい、返してもいいかな?」