見積もりには書けないもの

第二十一話 『羊革のスリッパ』

午前十一時。

約束の時間に、インターホンの前に着いた。

押す寸前――

ガチャ。

玄関が開いた。

「こんにちは♪」

文字にしたら、こんな音符マークをつけたくなるような挨拶だった。

「こんにちは!」

笑顔で返した。

Tシャツにジーンズ姿の森下さんは、また違った魅力があった。

料理の良い匂いに誘われながら、リビングへ向かう。

ふと足元を見る。

羊革のスリッパ。

何故かLINEのスタンプが頭に浮かんだ。

ダイニングテーブルには、すでにランチョンマットが並べられていた。

料理が来るのを、静かに待っているようだった。

「あっ、そういえば原澤さん、苦手なものってありました?」

俺をダイニングテーブルに案内したあと、すぐにキッチンへ向かった森下さんが聞いてきた。

「んー……クレーマーぐらいですかね(笑)」

笑い声とともに、すぐにツッコミが入った。

「野菜とか、苦手なのは?」

「あんまりないかな……」

すぐにセロリとチンゲンサイと言おうとした。

でも、なんとなくセロリの匂いがした。

だから言えなかった。

テーブルに並んだのは、

牛肉とセロリの炒め物。

鶏大根スープ。

サラダ。

そして、ごはん。

「なら良かったー」

そう言いながら、料理をランチョンマットの上に並べていく。

正直、セロリは苦手だ。

でも、これはいけそうだな。

そう思わせるほど、どの料理も見た目だけで、

「絶対、美味しいやつだ」

と分かる感じがした。

この感じで、料理も上手いんだ……。

そう思いながら、キッチンとダイニングを行き来する森下さんを、俺はずっと目で追っていた。
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