見積もりには書けないもの
第三十六話 『壁の隙間』
このままでいい。
このままずっと……。
変わらずリビングにいる俺。
ダイニングにいる美香。
二人は、壁越しに縮めた距離を、移動することでズラしてしまうんじゃないか。
そんな不安を感じていたんだと思う。
確かに、俺がそうだった。
だから美香も、きっと……。
これでいいんだよ。
この世界を、間違いにしたくない。
ずっと……ずっと。
間違いじゃないまま、大切な思い出にしよう。
そう思い立った瞬間、勢いに任せて立ち上がっていた。
そして、ダイニングに戻り、美香を見つめた。
『ねー、美香』
『アイスコーヒー淹れてよ』
『それ飲んだら行くよ』
『うん』
美香は少し笑って、
『あんまり引き留めると、ゆうを待ってるお客さんに怒られちゃうよね』
そう言って、キッチンへ向かった。
木製のコースター。
冷えたアイスコーヒー。
白く細長いストロー。
ガムシロップにミルク。
いつものセットだった。
カラン。
コースターに置かれた瞬間、氷が鳴った。
相変わらずだな……お前。
俺はアイスコーヒーを一気に飲み干した。
本当は、ゆっくり味わいたかった。
そのつもりだった。
けど……美香を見ていたら、無理だった。
『ご馳走様』
カバンから領収書を取り出し、机の上に置いた。
『時間できたらでいいから、振り込み宜しくお願いします』
久しぶりに敬語を使っていた。
これは仕事だ。
当たり前だよな。
俺は席を立った。
もう、振り返らない。
壁は、人を隔てるためだけにあるんじゃない。
大切なものを守るためにもある。
そして、そこに小さな隙間があれば、
人はちゃんと繋がれる。
このままずっと……。
変わらずリビングにいる俺。
ダイニングにいる美香。
二人は、壁越しに縮めた距離を、移動することでズラしてしまうんじゃないか。
そんな不安を感じていたんだと思う。
確かに、俺がそうだった。
だから美香も、きっと……。
これでいいんだよ。
この世界を、間違いにしたくない。
ずっと……ずっと。
間違いじゃないまま、大切な思い出にしよう。
そう思い立った瞬間、勢いに任せて立ち上がっていた。
そして、ダイニングに戻り、美香を見つめた。
『ねー、美香』
『アイスコーヒー淹れてよ』
『それ飲んだら行くよ』
『うん』
美香は少し笑って、
『あんまり引き留めると、ゆうを待ってるお客さんに怒られちゃうよね』
そう言って、キッチンへ向かった。
木製のコースター。
冷えたアイスコーヒー。
白く細長いストロー。
ガムシロップにミルク。
いつものセットだった。
カラン。
コースターに置かれた瞬間、氷が鳴った。
相変わらずだな……お前。
俺はアイスコーヒーを一気に飲み干した。
本当は、ゆっくり味わいたかった。
そのつもりだった。
けど……美香を見ていたら、無理だった。
『ご馳走様』
カバンから領収書を取り出し、机の上に置いた。
『時間できたらでいいから、振り込み宜しくお願いします』
久しぶりに敬語を使っていた。
これは仕事だ。
当たり前だよな。
俺は席を立った。
もう、振り返らない。
壁は、人を隔てるためだけにあるんじゃない。
大切なものを守るためにもある。
そして、そこに小さな隙間があれば、
人はちゃんと繋がれる。