見積もりには書けないもの

第四話 『理解された幸せ』

幸せに浸っていると、森下さんはさらに深い幸せで俺を包み込んでくれた。

「センスってね……人それぞれだと思うんです。

大事なのは、それぞれの物差しをちゃんと持っている人かどうかだと思うんです。

だからこそ、原澤さんに相談したいなって。」

「ありがとうございます。」

その時の俺には、それ以外の言葉が見つからなかった。

いや、見つかったとしても口にできなかっただろう。

「ありがとうございます。」

その一言だけで十分だった。

胸の奥から込み上げてくるものを必死に押さえながら、俺は何度も心の中でその言葉を繰り返していた。

ふと壁に掛かった時計を見る。

10時25分。

何気ないはずのその時間を、俺の頭は勝手に「忘れちゃいけない時間」として刻み込もうとしていた。

人って、本当に嬉しい瞬間は、景色や時間まで覚えてしまうものなんだな。

男って、女性が想像する何倍も勘違いしながら生きている生き物だと思う。

もちろん俺も例外じゃない。

その勘違いという名のお湯に肩まで浸かって、のぼせそうになっていた。

危うく、またライオンが子猫ちゃんになるところだった。

だからといって、不純な考えで頭がいっぱいだったわけじゃない。

……いや、「それも不純だろ。」と言われたら否定はできない。

でも、ちゃんと理解はしていた。

今の自分も。

自分の家庭も。

子どもたちのことも。

そして、森下さんにも、きっと大切な家族がいる。

だから何かを望んでいるわけじゃない。

もしチャンスがあったとしても、それに飛びつきたいわけでもない。

ただ——。

ただ……。

「理解してもらえる。」

そのことが、こんなにも嬉しいものなんだ。

そんな気持ちを、誰かに伝えたかっただけなのかもしれない。

自分でも答えの出ない感情を抱えながら、心の中のモヤモヤと向き合っている俺を見つめるように、森下さんは静かに話を続けた。
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