今日も悪魔に恋してる 〜塩対応な先輩は、絶対に好きと囁かない~
「それでは、これで終わります。礼。ありがとうございましたっ」
「ありがとうございましたっ」
皆の挨拶が射場に響き渡った。
皆が立ち上がるも、あたしはしばらく正座したまま霞的を見る。
「どうしたの?」
「んー……名残惜しいなぁって」
ほんの少しだけ青が薄れ、橙色が空を染めはじめていた。
卒業してから、なかなか弓を引く機会がない。
こうやってOB射会も年に一度だと思うと、なんとなくこの場所から離れがたくなる。
明日からはまた、社会人としての小鳥遊すみれの日常だ。
「センチメンタルにもなるよね~」
「うん。でも、良いリフレッシュになったよ」
立ち上がって、神棚に向かって一礼する。
射場からまっすぐに伸びる安土を見て、あたしの心も整った。
(ありがとうございましたっ)
仲間たちと別れて、弓具を肩に掛け、乗り換えの駅へ向かう人波に紛れた。
久しぶりに弓を引いた心地よい疲労感に、肩をぐるりと回す。
(明日、絶対筋肉痛だ……)
そんなことを考えながら信号待ちをしていると、ふわりと鼻先を掠める香り。
あのタバコと——シトラス。
(……え?)
反射的に顔を上げた。
少し先で同じく待っている、紙袋を手にした背の高い男性。
会社では見たことのないラフな服装で、しかも後ろ姿なのに見間違えるはずがない。
(佐久間主任……?!)
さっきまで、頭の中をちらついていた人。
まさか本当に会うなんて思わなくて、心臓が大きく跳ねた。
声をかけようとして、足が止まる。
信号が変わって、人の動きが流れ出す。
(……ちょっと待って。会社じゃないし)
(迷惑かな……そもそもあたしのこと、知ってる?!)