今日も悪魔に恋してる 〜塩対応な先輩は、絶対に好きと囁かない~

5話 悪魔は距離を縮めない

7月上旬の土曜日は、澄んだ青に白く高い雲が映える夏日和。
あたしは気持ちを整え、28メートル先の霞的を見つめる。
矢を放つと、高く澄んだ弦音に続いて、的中の乾いた音が響き、道場が湧いた。

「さすがっ小鳥遊先輩っ!」
「相変わらず残心まで形がキレイよね~」

今日は、弓道部のOB射会に来ていて、久しぶりに弓を引いている。
一礼して射場を出たあと、弓を置くと友人たちが集まってきた。

「はぁぁーやっぱり、いいなぁ~弓引くの」
「すみれってば、ストレス発散?」  
「うーん……ストレスというか、モヤモヤ?」
「仕事?それとも恋?!」
「恋なんてないない!」
 
即座に否定したものの、”恋”という単語に、一瞬だけ鼓動が跳ねる。

「じゃあ仕事かぁー」
「……たぶん?」

なぜか疑問形で答えるも、話題はもう別に向いていた。
あたしも深追いはせず、弓道場の懐かしい雰囲気を楽しむことにした。
 
(たくさん引いたから、肩甲骨周りが疲れてきた……)
 
あれから模擬試合や余興と、体を動かしていた。
現役時代よりは少ないものの、日頃の運動不足は否めない。
休憩がてら自販機へ向かう途中、喫煙所にいる先輩に声をかけられた。
 
「おっ、小鳥遊じゃん!久しぶり」
「先輩お久しぶりです……ってそのタバコ」

先輩が吸っている匂いに、体が反応する。
間違いない、佐久間主任と同じ銘柄だ。
 
「なに?お前吸ってたっけ?」
「いえ、知り合いが同じものみたいで」
「へぇー、これドイツのタバコだぜ。結構重いやつ吸ってんなぁ」

先輩は「俺は土産でもらった」と付け加えたが、あまり会話が耳に入ってこない。
それよりも火のついたタバコとその匂いに、意識が持っていかれた。  

(同じタバコ……でも、シトラスが足りない……)

ここにいるはずもないのに、匂いひとつで佐久間主任を思い出してしまう。  
くゆる煙の向こうに、悪魔の背中がちらついて仕方なかった。           
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